本研究は、わが国の民間調停機関の事件管理者が担っている事前手続の実態を把握し、これをアメリカの民間調停機関の実情と比較しつつ、適正な利用者のアクセス強化につながる事件管理者の役割を理論的かつ経験的に検討することである。 本研究期間での研究を通して、次のような知見を獲得した。機関で調停事件を手続に乗せていくには、利用者が機関の受付と接触するまでと、その案件が事件管理者に配点されるまでと、その二つの側面が重要であることが明らかになっている。そして、前者については、アメリカのNJCのように裁判所からの回付と結合すると当事者の自発的な選択の色合いが薄れていくが、日本ではこのようなシステムは存在せず機関を設立する専門職団体構成員を通じて利用者が到達している。この形態は地域の住民や諸団体を通じて利用者がアクセスするIMCRにより近い。後者については、事件管理者は、Narrative Mediationの初期段階で実施されている利用者の物語の再構成を促す傾聴にきわめて近い実践をおこなっている。しかし、そこには、利用者が事件管理者を自分の側へと深く巻き込んでいく危険性が伏在するとともに、終了の時点での調停による解決の当事者への抑圧性を潜ませておく機能をはたす契機になりうる。 本研究の成果の一部は、すでに2018年リスボンで開催されたRCSLでThe Mimetic Gesture in a Facilitative Mediation Processとして、また2019年の日弁連シンポジウム「モンゴルの調停の現状」で「モンゴル調停の特徴と課題」として報告した。現在、本研究の成果を学術論文として取りまとめる準備をおこなっている。
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