本研究の目的は、成立期コモン・ローの特質を、コモン・ロー的要素のみならず、同時期のアングロ・サクソン法的要素や教会法的要素を含む三つの法的要素の複合的産物として、再考することにある。この目的を達成するための手がかりとしたいのは、何故に、アングロ・サクソン法集成等が、コモン・ローの成立期たる12世紀に盛んに編纂ないし筆写されたのかという点の解明である。 明らかにすることができたのは、以下の諸点である。すなわち、(1)アングロ・サクソン法集成等の写本のうち、現存するものの大多数は、アングロ・サクソン時代ではなく、その後のノルマン征服以後の時代に由来しており、中でも12世紀に由来する写本の多さは際立っているという点、(2)現存しない複数のアングロ・サクソン法集成の存在が推察され、法集成の編集ないし筆写は、12世紀に全盛期を迎えるという点、(3)アングロ・サクソン法集成の作成には、11世紀から12世紀に教会法分野で盛んに用いられた教会法集成作成の手法が用いられたのではないかと推察される点、(4)アングロ・サクソン法集成等のうち、『エドワードの法』の写本の多さは群を抜いており、これに関しては、その筆写のピークが12世紀に訪れた後、近世に復活ないし言及されるという点、(5)アングロ・サクソン法集成等が、コモン・ローの成立期たる12世紀に、何故、盛んに編纂ないし筆写されたのかという問題に対しては、ノルマン朝とアンジュー朝による征服と支配の歴史を踏まえた上で、法の連続性という観点から検討する必要性が明らかになったという点である。また、ベケット論争の影響も視野に入れておく必要性も明らかになった。
|