研究課題
本研究はベトナム・ラオス・カンボジアのインドシナ諸国を題材に,私法の一般法としての民法とその関連法令(以下,民法関連法令という)の整備・実施が,国家の法システムの改善としての法的発展を通じ,1人当たり国内総生産(GDP)の成長を含む経済的発展および民主化の進展を含む政治的発展にどのように寄与するかを,各国の実情に即して検討することを目的とした。とりわけ,より多くの市民が開発プロセスに関わり,発展の利益を分かち合いつつ,最大限の成果を上げる発展形態として注目されるインクルーシブな発展のために,民法関連法令が果たしうる役割について考察した。本年度はベトナム,ラオスおよびカンボジアにおいて調査・収集・分析した資料に基づき,各国の民法関連法令の整備・実施状況の内容と取引・裁判実務における適用状況を含む具体的情報を収集し,保護・実現されている権利・法益の種類,権利主体,権利客体,権利変動等について,相互に比較した。また,各国の法制度全体の整備状況の中で,民法関連法令の整備・実施がもつ意義,実質的機能,整備が十分でない部分等を考慮に入れ,法的発展の現状につき,司法アクセス指標を含む既存の法の支配指標等を参照しつつ,法的発展について考察した。ついで,各国について収集した経済的発展状況の諸指標および政治的発展状況の諸指標を確認する一方で,特に民法関連法令の整備が本格的に始まった1980年代後半以降に着目して,経済的発展状況および政治的発展指標と,法的発展との相関関係の有無を検討し,各国における具体的事件も考慮して,それらの間に考えられる相互関係について検討した。それに基づき,民法関連法令の整備・実施がインクルーシブな発展に対してどのように寄与しうるか,その多様なパターンの可能性を,ベトナム,ラオスおよびカンボジアの具体的なコンテクストに即しつつ,総括的に考察した。
2: おおむね順調に進展している
概ね研究計画に従い,研究を実施した。その結果として,民法関連法令の整備・実施およびそのための法整備支援が,対象国の政治的条件等によっては,かえって経済的指標,とりわけ国民1人当たりの国内総生産等の福祉の増進に対して必ずしも効果的に寄与していない,一種のパラドクスが存在しうる可能性も浮上した。この点に関するより詳細な事実確認とその背景等の考察については,なお研究の余地を残している。
研究課題として残された点,とりわけ,民法関連法令の整備・実施およびそのための法整備支援が,対象国の政治的条件等によっては,かえって経済的指標,とりわけ国民1人当たりの国内総生産等の福祉の増進に対して必ずしも効果的に寄与していない,一種のパラドクスが存在しうるのか,存在するとすればその理由は何か,そして,その改善策としてどのような方法が考えられるかについて,さらに詳細な事実確認とその背景等の考察を進めたい。そのことも通じて,法的発展と経済的・政治的発展との相互作用に関する一般理論の構築に向けた題材を蓄積したい。
研究対象国の1つであるラオスでは,2018年12月ラオス国会で新民法典が成立したが,国家主席令による公布および官報掲載が遅れたため,予定していた2019年8月の調査時に民法の普及状況やそのための取り組みを調査することができなかった。2020年3月になってようやく国家主席令によって公布されたことから,2020年度に調査を実施したい。すでに情報収集を調整を始めており,民法典公布後の実務対応について,ラオス司法省,国会,裁判所,大学を対象に,2020年8月に調査を実施する予定である。
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KEIGLAD, Hiroshi Matsuo et al. (ed.), How Public Law Is Taught in Asian Universities, PAGLEP Series IV, Keio University Press,
巻: 4 ページ: 135-163
日本法社会学会編『司法制度改革とは何だったのか』法社会学86号(有斐閣)
巻: 86 ページ: 87-97
http://keiglad.keio.ac.jp/working/