研究実績の概要 |
各論的研究として、母方財産bona maternaの財産管理・相続承継の検討を継続しているところだが、このテーマの延長として、本年度は特に嫁資外財産に着目した。嫁資外財産は、東部地域ではparaphernaと呼ばれ、しばしば嫁資に伴って供与された。それは、妻(母親)の一種の特有財産を形成していたが、法的位置づけはなお検討を要する。学説彙纂中のパピニアヌスのテキストに、母親が娘に供与した嫁資外財産の返還を請求する事案があり(D.39,5,31,1)、この法文に焦点を当てて検討を進めた。 このパピニアヌス法文は、相当な根拠から改竄が強く疑われてきたが、近年のインテルポラティオを過大評価しない研究傾向に従い、再考の余地がないとはいえないと考えた。難解な本法文は、改竄を一旦否定して法文全体を読解すると、verecundia(畏敬、羞恥心)の観点から、母に対する侮辱offensaによる悔い返しを示唆した法文として、余すところなく理解可能になる。この読解の可能性を論証することで、帝政末に始まるとされてきた忘恩に基づく贈与取消について、その法的追求をパピニアヌスが3世紀初頭にいち早く考慮していた可能性を見出した。特有財産の法的展開を考える上で重要である。 こうした検討の結果を9月に国際学会で報告した。 続いて、さらにこの報告の論拠を補強するため、offender、merereなどのキーワードを使用した法文をローマ法源資料から渉猟して比較検討した。この作業によって、特に関連のウルピアヌス法文等からoffender, offensaの用法の新たな知見と論拠を得ることができた。これを加えて、3月の研究会で報告した。 ローマ法信託遺贈についても、これまでの成果の一部を論文にまとめ、公表した。引き続き、先行研究文献の検討、関連の法源資料の読解を継続している。
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