研究実績の概要 |
昨年度から引き続き、各論研究として、Paraphernaとも呼ばれる妻の嫁資外財産の処分・管理について、ローマ法文の分析を進めた。特に、スカエフォラの21 dig. D.35,2,95は、これまであまり扱われてこなかったテキストだが、その首項が、夫に遺された妻の嫁資外財産の管理と処分を問題としている。この事案は複雑だが、妻が設定していた信託遺贈が、嫁資外財産の夫財産への混同を阻止し、最終的に夫の相続人に正確な清算を義務づけ、さらに子や孫へ当該財産の引渡しを実現させることになる。首項に続く第一項も、婦女の財産が題材である。彼女の遺した財産中には多くの被扶養者への扶養料支払いのためのファンドが含まれていたが、あらかじめ設定されていた信託遺贈によってこのファンドが分離され、扶養料の支払いが完遂されることになる。このスカエウォラの一連のテキストは、首項の嫁資外財産分離のプロットが、扶養料ファンドの分離へと展開されたものと読むことができる。これらから、家共同体の財産管理のうち、家内での財産の分離・管理の法的基盤の作り方、個別目的に対応した家内財産の運用・保証のしくみの一端を明らかにすることができた。 これらの成果を、9月にエディンバラで開催された国際古代法学会(LXXIIIe Session De La Societe; Internationale Fernand De Visscher Pour L’histoire Des Droits De L’antiquite; (SHIDA) 2019 Edinburgh, UK)で報告した。この報告をベースに、さらに検討を加え、論文に仕上げている(校正中)。
|