研究課題/領域番号 |
16K03277
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
小林 昌之 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 新領域研究センター, 主任調査研究員 (60450467)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 障害 / 障害法 / 中国法 / 障害者権利条約 / 人権 |
研究実績の概要 |
2018年度においては、文献調査を進めたほか、現地調査、研究協力者を招へいしたワークショップ、一般向けの講演会などを実施した。 9月に武漢市と上海市を訪問し、障害当事者および障害者へのサービス・プロバイダーへのインタビューを実施した。本科研は中央の法規と地方性法規の関係に焦点をおくものであるが、中央レベルの法規(条例)が社会動向の影響を受けながら業界規範の策定につながっている例があることがわかった。ただし、他の関連法規の制定過程と同じく、関連する障害当事者の十分な参画がないため、当事者からは業界規範となるガイドラインそのものへの不安の声が聞かれた。 また11月には北京市を訪問し、同様に障害当事者および障害者へのサービス・プロバイダーへのインタビューを実施した。ここでは、中央の条例(バリアフリー環境建設条例)に基づき、中央の政府部門(人力資源社会保障部)が管理していた資格制度(手話通訳者認定)が破綻したことにより、公的サービス(手話通訳)の提供が混乱し、市レベルで対処した事例などを聴取することができた。中央での制度作りが先行したために、現場である地方で混乱が生じた例のひとつであるが、これらは法文上には現れないため把握しにくく注意を要する。 このほか、2月に中国の武漢大学と西南政法大学から人権と障害法を専門とする研究協力者2名を招へいし、日本のアジア法、障害法の研究者、実務家を交えたワークショップを開催した。中国における障害者の権利に関するこれまでの研究内容の確認および研究課題に関する意見交換を行った。なお、研究成果の一部として、2018年度中に別記3本の論文を公表するとともに、3月に一般向けの講演会を開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現地調査が少しずつ遅れ、ずれ込んでいるものの、その他は順調に進んでいる。 2018年度は、9月と11月に中国への現地調査を実施し、地方の障害当事者団体、研究者、サービス・プロバイダーに対するインタビューを実施した。9月の現地調査では、武漢大学法学院の研究協力者から研究課題に関する資料の提供を受けるとともに、年度末に実施するワークショップについて打合せをした。この打合せに基づき、2月に武漢大学と西南政法大学から研究者2名を日本に招へいし、アジア法や障害法を専門とする教授・研究者、障害分野を担当する弁護士および障害当事者団体の職員などの実務家を交えたワークショップを開催した。意見交換を通して得られた知見を最終報告執筆に反映する予定である。 なお、研究成果の一部として執筆した中国政府による障害者権利条約の国内的実施の論考を所収する研究書が、予定より遅れて出版社から刊行された。同様に、研究成果の一部として、中国のアクセシビリティ法制ならびに法的能力に関する論考を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
官製の障害者連合会以外の障害当事者団体へのインタビューを進めるために、研究過程で情報を得た、草の根の障害当事者の活動が比較的活発である地方への現地調査を2019年度も実施する予定である。とくに武漢市において研究協力をいただけることになった研究者、障害当事者との意見交換を進めるとともに、紛争事例・裁判事例の収集に努める。 また、障害者権利条約および持続可能な開発目標(SDGs)ならびに国連ESCAPのインチョン戦略に関する中国の国内履行状況の概要については『Building Disability-Inclusive Societies in Asia and the Pacific: Assessing Progress of the Incheon Strategy』(2018)などにより部分的に確認することができたので、未実施となっているESCAPへの現地調査を実施し、本科研における文脈で当該報告書の内容を精査したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)現地調査が日程調整困難のため少しずつ遅れており、それに起因して次年度使用額が生じている。研究を完成するために延長を申請し、次年度実施することが認められた。 (使用計画)これまでの分析結果を確認し、議論を深めるために、障害関連紛争の調査について協力が得られることになった武漢大学法学院などがある武漢市等への現地調査を実施する。また、アジア太平洋障害者の10年における中国の国内履行状況を位置づけるため、未実施となっているESCAP本部などへの調査を実施する。
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備考 |
講演:「中国におけるろう者のアクセシビリティ保障」(2019年3月4日、於JETRO本部)
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