研究課題/領域番号 |
16K03287
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
成澤 孝人 信州大学, 学術研究院社会科学系, 教授 (40390075)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 憲法 / 議院内閣制 / イギリス / 国会主権 / 大臣責任制 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、主に、資料の収集とその読解に時間を費やした。それを通じて、議院内閣制の本質は、立憲的な仕組みにあることを改めて確認することができた。 例えば、議院内閣制に関する古典的著作である Sir Ivor Jennings の Cabinet Government (第3版, Cambridge University Press,1969)から、議院内閣制の生成および運用についての歴史的変化の過程について多くのことを学んだ。特に、立憲君主政の仕組みを示した第12章は、議院内閣制と立憲君主政との歴史的な関係を理解する上で、非常に重要だと考えられる。 また、現在の議院内閣制のトータルな姿を、Simon James の British Cabinet Government (第2版, Routledge, 1999)によって確認することができた。この研究から、議院内閣制を、首相、閣僚、閣僚委員会、閣僚ではない大臣、官僚まで含めて、総合的に理解することの重要性を学ぶことができた。それとともに、議院内閣制の中心はやはり内閣であること、同時に、首相のリーダーシップが内閣の集団的な性質とは対立すること、また、両者の綱引きの中に、現在の議院内閣制の姿がみられることを理解することができた。 内閣に対する国会の統制について、Diana WoodhousやAdam Tomkinsの諸論稿を参照し、90年代から、それが活発化してきたということを理解することができた。また、大臣責任制の前提には、国会主権が存在するが、Micheal Gordon の Parliamentary Sovereignty in the UK Constitution(Hart Pub Ltd,2015)などから、国会主権原理が、現在でもイギリス憲法の中心的原理であることを学んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
議院内閣制の立憲主義的解釈のおおまかな主張は、平成28年度に発表した「イギリス憲法改革と議院内閣制の現在」(比較法研究,78号)で示したところである。平成29年度に、この成果をさらに深化させて信州大学の紀要に投稿する予定だったができなかった。 なお「皇室典範特例法にみる国民主権の現状」(現代の理論、2017年夏号)は、本研究でえられたイギリス立憲君主制理解を基礎にして、イギリスの王制と日本の天皇制を比較したものである。また、「改めて憲法を考える(35)安保法制違憲訴訟について考える」(時の法令、2025号)において、イギリスの高等法院が、ブレグジットを進めようとする内閣に対して国会の承認を求めるよう判示したミラー判決(〔2016〕EWHC 2768 (Admin))について検討を加えた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、渡英し、議院内閣制の立憲主義的解釈について、イギリスの研究者から意見を聴取する予定である。特に、イギリスにおいて常態化しているハング・パーラメント、およびバックベンチャーの自由な活動を議院内閣制との関係でどう評価するか、首相と内閣のどちらが政治の中心だと考えるかについて、イギリスの研究者の見解を確認し、本研究に役立てたい。 また、議院内閣制の立憲主義的解釈について、国王大権、国会主権、内閣制という三つのファクターに注目した論稿を発表する予定である。さらに、議院内閣制における二大政党制の位置づけという問題に着手したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、平成29年度に渡英する予定になっていたが、諸々の事情で、平成30年度に渡英するよう計画を変更した。そのため、平成29年度の支出は、平成30年度の渡英費用を賄うために意図的に少なく使用した。
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