• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2017 年度 実施状況報告書

英国権利章典をめぐる憲法政治と憲法理論に関する比較憲法的研究

研究課題

研究課題/領域番号 16K03288
研究機関名古屋大学

研究代表者

愛敬 浩二  名古屋大学, 法学研究科, 教授 (10293490)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード比較憲法 / イギリス憲法 / 英国権利章典
研究実績の概要

2016年6月のEU離脱レファレンダム以来、ヨーロッパ人権憲章体制からの自立性の確保を目的とする英国権利章典の論議は停滞気味である。ただし、長年上級裁判官を務めたJohn LawsのThe Common Law Constitutionのように、イギリスの伝統的な「コモンローによる人権保障」への回帰を論ずる議論がある一方、Conor GeartyのOn Fantasy Island: Britain, Europe, and Human Rightsのように、政治家・法律家の間でのコモンロー礼賛の復活を、ヨーロッパ人権憲章体制への反動と評価して、Laws等が擁護する「コモンロー立憲主義」の問題点を批判的に検証する議論もある。すなわち、憲法理論のレベルでは、本研究に関わる問題が様々なかたちで議論されているので、今年度の前半は、コモンロー立憲主義の意義と問題点を多角的に検討した。
2017年9月、コモンロー立憲主義との対抗を意識しつつ、国会主権原理の再構築を試みるモノグラフィーを公刊したMichael Gordon氏が訪日し、国際セミナーを開催することになったので、7~9月の間は国会主権原理に関する最新の研究の調査・分析を行った。
9月中旬に渡英し、ロンドンとエディンバラで資料の調査・収集と、現地の研究者へのインタビューを実施した。
以上の研究活動の一部は、「奥平憲法学とコモン・ロー立憲主義」等の論文で公表した。また、2018年5月に公刊予定の論文「イギリス憲法研究の課題とコモン・ロー」において、本研究課題に関わる比較憲法研究上の課題について詳細に論ずる機会を得た。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

前述のとおり、政治問題としての英国権利章典論議はやや停滞義務であるが、憲法理論のレベルでは興味深い理論的対抗が生じており、その議論状況を文献調査だけではなく、現地調査の際のインタビューや来日した英国の憲法学者(Michael Gordonリバプール大学講師とKeith Ewingキングズ・カレッジ教授)との討論を通じて深く理解することができた。以上の研究を踏まえて、「コモンロー的思考」がイギリス憲法論議に及ぼす正負のインパクトを測定する論文「イギリス憲法研究の課題とコモン・ロー」を執筆できたことは今年度の大きな成果であった(公刊は2018年5月の予定)。
EU離脱レファレンダム以降のイギリスの憲法政治に関する研究書や新聞記事等も調査・収集しており、現在のイギリス憲法理論における議論の分岐を理論・実践の両面から理解する視点を獲得しつつある。よって、英国権利章典論議の沈静化という状況にもかかわらず、ヨーロッパとの関係でのイギリスの人権保障の水準・方法に関する憲法論議を分析し、イギリス憲法(学)の「固有性」と「普遍性」を明らかにして、比較憲法研究の基礎理論を構築するという本研究の課題は概ね順調に進展していると評価できる。

今後の研究の推進方策

本研究は基本的に、文献解読に基づく個人研究であり、その研究を通じて得た知見をイギリスと日本の憲法学者との意見交換や討論を通じて必要な修正を行い、論文として公表するというものである。
平成29年度は、英国権利章典論と同調する側面の強いコモン・ロー立憲主義の議論の批判的検討に多くの時間を費やしたが、平成30年度は、EUが象徴するグローバル市場経済への批判的視座を持ちつつも、イギリス一国ではなく、ヨーロッパ規模の人権保障の進展に期待をかける憲法学説を主に調査・検討する。とりわけ、政治的憲法論の立場をとり、国会主権原理をシリアスに受け止める論者(Keith Ewing, Michael Gordon, Danny Nicol)等がEU離脱や英国権利章典論議をどのように分析・評価しているのかを調査する。また、9月に渡英して、Thomas PooleやMartin Loughlinのような理論志向の強い憲法学者が現在のイギリス憲法論議の状況をどのように評価・分析しているのかについて、インタビューと意見交換をする計画である。
平成30年度の後半は、3年間の研究成果を整理し、各国憲法(学)の「固有性」と「普遍性」の両方に配慮した比較憲法研究の意義と課題を一般的に論ずる論文を執筆する。

次年度使用額が生じた理由

平成29年度に注文した洋書の一部について公刊時期が遅くなったため、予定よりも物品費の使用額が少ない結果となった。平成30年度は本研究課題の最終年度のため、図書の発注は前期中に行う予定であり、昨年度のようなかたちで残金が残ることはないものと考える。
また、平成30年度は9月にイギリス出張を企画しており、財政的に可能であれば、本研究の最終段階(2019年2~3月)で、本研究の成果をまとめた論文のドラフトを持参して渡英し、現地の憲法学者と意見交換をすることも計画している。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2017

すべて 雑誌論文 (2件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 政治文化としての立憲主義2017

    • 著者名/発表者名
      愛敬浩二
    • 雑誌名

      『憲法理論とその展開』(浦部法穂先生古稀記念論文集)信山社

      巻: 1 ページ: pp.67-85

  • [雑誌論文] 奥平憲法学とコモン・ロー立憲主義2017

    • 著者名/発表者名
      愛敬浩二
    • 雑誌名

      『憲法の尊厳 奥平憲法学の継承と展開』日本評論社

      巻: 1 ページ: pp 83-399

  • [図書] なぜ表現の自由か―理論的視座と現況への問い2017

    • 著者名/発表者名
      阪口正二郎、毛利透、愛敬浩二
    • 総ページ数
      256頁
    • 出版者
      法律文化社

URL: 

公開日: 2018-12-17  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi