本研究課題の当初の目的は、David Cameron首相等の政治家や一部の法律家が提唱していた1998年人権法の廃止の問題を比較憲法研究の観点から検討することにあったが、2016年6月のEU離脱レファレンダム以来、ヨーロッパ人権憲章体制からの自立性の確保を目的とする英国権利章典の論議は停滞気味である。ただし、EU離脱レファレンダム以降の憲法政治(特に議会制民主主義の機能不全)との関係で、イギリスにおいても従来の憲法理解や憲法学説に対する見直しが急速に進められており、2018年度はそのような研究動向の調査・分析と、その研究活動を通じての日本憲法学における比較憲法研究方法論の反省のための研究を行った。 具体的には、EU離脱レファレンダム以降の国会主権論の動向を、政府によるEU離脱通知との関係で改めて国会主権の意義を説いた最高裁判決(Miller判決)に対する憲法学者の評価の分岐を含めて検討し、日本の民主主義憲法学の課題と関連させて、現在のイギリス憲法学説の理論動向を分析する意味を明らかにする論文を執筆した(2019年7月頃に公刊予定)。また、2018年9月にリバプール大学法学部で開催された国際セミナーにおいて、EU離脱レファレンダム後のイギリス憲法学の理論動向と日本の民主主義憲法学の課題を関係づけた研究報告を行った(英語)。同報告の成果は英語論文として公表することを計画中である。 以上のとおり、3年間の研究期間を通じて、「イギリス憲法のゆらぎ」の中で、新たな憲法理解と憲法理論を模索するイギリス憲法学の議論状況の調査・分析を通じて、日本憲法学にとっての比較憲法研究の課題を明らかにすることができた。
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