研究課題/領域番号 |
16K03294
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
新井 信之 香川大学, 法学部, 教授 (80249672)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 欧州連合(EU) / 移民法 / テロリスト / 難民 / 退去強制 / 外国人 / 人権 / EU基本条約 |
研究実績の概要 |
本研究は、昨今の国際社会における喫緊の課題である外国人が関与するテロリズムに対してEU諸国の移民法(出入国管理法)がどのように対処しようとしているかについて、今年度も海外の研究者・実務家との連携を保ちつつ、以下のような学術調査を実施し、一定の研究成果を上げることが出来た。 まず、外国人テロリストとEU移民法に関する事柄について、ドイツおよびチェコにおいて調査を実施し、情報の収集とともに現地の関係者と情報の分析および意見交換をすることが出来た。ドイツにおいては、2016年ベルリンのクリスマスマーケットにおけるテロ事件の発生現場および現在の難民収容所について現地調査を実施し、貴重な知見を得た。チェコにおいては、プラハ・カレル大学法学部および同人文学部、欧州連合(EU)の政府関係者らから多くの学術的知見を得て、彼らとともに欧州連合(EU)におけるテロ・難民についての法的な枠組みの分析・共同研究を実施し、本研究に必要な情報および意見交換をした。さらにプラハ・カレル大学人文学部の関係者については、在来研究の折に香川大学へ招請し、共同研究の機会を得た。また、今年度は本研究の協力者であるアメリカ・UCLAロースクールの移民法研究者も来日し、昨今の情勢について情報・意見交換を行うことができた。 これらの貴重な情報・意見交換および資料収集を基にして、とくにテロ・難民に関わる移動の自由と人権保障についてのEU法における基本的な枠組みを意識しつつ、欧州連合(EU)の憲法ともいえる「EU条約」「EU運営条約」「EU基本権憲章」の三つの基本条約を一括して翻訳し、研究業績の一部として公表(香川法学第35巻4号)することが出来た。かかる研究成果は、次年度以降の本研究にとっての学術的な思考の基礎となるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において、これまで国内外における研究調査活動、情報収集および意見交換、 研究成果の発表をおおむね順調におこなうことが出来ていると思料する。 平成28年度は、ヨーロッパ各国およびEUに関する新しい文献資料を収集するとともに、外国人テロリストとEU移民法に関する事柄について、首都のブリュッセルで連続テロ事件が発生したベルギーにおいて現地取材を実施し、オランダにおいては、ライデン大学移民法研究センターおよびライデン大学アジア地域研究センターの関係者らとEU移民法およびテロ・難民についての共同研究および資料収集・情報交換を実施することが出来た。また、ドイツにおいては、フランクフルト・ゲーテ大学法学部の関係者と日本法およびEU移民法についての共同研究を実施することが出来た。さらに、チェコのプラハ・カレル大学法学部の関係者らとともに情報分析・共同研究を実施し、同じくチェコのパラキー大学法学部が主催するテロと難民に関する国際学会へ出席して、各国の研究者たちと情報および意見交換をすることが出来た。これらの研究成果の一部を、日本においても国際人権法学会の外国人の出入国と在留研究グループはじめ研究者・実務家との意見交換の場において、「EU移民法とヨーロッパにおける『移動の自由』」の危機」というようなテーマで発表を行うことが出来た。 平成29年度においては、前述の研究実績にもあるように、とくにチェコのプラハ・カレル大学関係者との共同研究体制を確立し、テロ・難民に関する欧州連合(EU)の法的枠組みを研究するために、研究者のみならず政府関係者からの聞き取り調査を実施し、EUにおける出入国管理法制の比較研究のための新たな研究推進ネットワークを構築することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、日本における外国人テロリスト等に対する出入国管理強化とともにそれとは区別されるその他の外国人の人権保障についての提言をおこない、併せて、欧米の研究機関および研究者と連携し、EU諸国において統一されつつあるEU移民法について全体としてのEU法研究の体系化の一端を担うべく先駆的な研究の推進を心掛け実施されるものであるが、平成28年度の研究成果から得られたのは、外国人テロリストと大量難民の発生および移動の自由との関連性が新たな問題として浮上してきたことであった。 そのため、平成29年度は欧州連合(EU)の基本条約における移動の自由、テロ・難民に対する法的な枠組みを検証したが、今後は、前回の科学研究費補助金・基盤研究(C)(平成24~27年)による研究成果の一部である拙論「EU移民法研究序説-日米の比較を踏まえて-」(香川法学第34巻3・4号)との関連を踏まえて、EU移民法とヨーロッパにおける「移動の自由」の危機」について、さらに踏み込んだ検証を推進していく予定でいる。さらには、ヨーロッパ全体におけるこれらの問題について幅広い視野をもち、各国の研究者および実務家との連携を深めつつ情報交換および分析を行っていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
若干の未使用分については、翌年度の物品費として使用を予定している。
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