研究課題/領域番号 |
16K03300
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
白水 隆 帝京大学, 法学部, 講師 (70635036)
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研究分担者 |
手塚 崇聡 中京大学, 国際教養学部, 准教授 (30582621)
大林 啓吾 千葉大学, 大学院専門法務研究科, 准教授 (70453694)
富井 幸雄 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (90286922)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 事情変化の法理 / 生ける樹理論 / カナダ憲法 / アメリカ憲法 |
研究実績の概要 |
初年度である28年度は、当初の計画通り早期に第1回目の全体会合を開き、問題意識や情報の共有、更には新たな論点の設定など、研究者間で有意義な議論を行った。これを踏まえ、2月に開催した第2回会合では、ディクソンコート(1984年~1990年)以降の各コートの特徴を協議し、カナダ最高裁が進歩的解釈を積極的に採用する背景に焦点を当てた。まず、ディクソンコートについては、カナダ人権憲章が制定されてから間もない時期ということもあり、各条項の性質(保障範囲)を形作る裁判例が数多くみられ、当時の時代状況との関連で活発な議論がなされたことを明らかにした。次に、ラマーコート(1990年~2000年)については、裁判官同士で分断が生じたコートであり、特に、平等権の保障範囲をめぐり激しく議論が対立した経緯から議論の焦点をそこに当て、特に現在のマクラクリンコート(2000年~現在)にさまざまな影響を与えたことについての検討を加えた。最後に、マクラクリンコートの分析においては、ラマーコート期に生じた分断を乗り越え協調路線へと切り替わり、また、憲法判断においても穏便な路線をとったことを確認した。もっとも、マクラクリンコートもまた、2015年まで続いた保守党政権下で制定された法令について、人権憲章第7条違反とする判決を多く下したり、ディクソンコート以来カナダ最高裁の主たる憲法解釈方法である「生ける樹理論」に言及したりするなど、目的的解釈を多用したことが明らかにされた。 以上のように、各コートの特徴について検討がなされ、次年度以降の研究の基盤を形成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述(研究実績の概要)のとおり、半年に一度の全体会合を前後期に行い、研究者間で各々が担当している事項につき報告を行い、それをもとに今年度への下地を形成することができた。もっとも、初年度の研究計画では、各コートの特徴を見出すことが主たる目的であったが、憲法解釈(特に、時代状況に応じた憲法解釈)という視点において、コート間で大きな差異は見られなかった。 しかし、このことは、本研究の進捗の遅れを示すものではない。なぜなら、本研究課題は、時代状況にあわせた憲法解釈の理論的根拠等を探るものであり、まさにそれらは社会的状況等に左右されるため、各コートの特徴を炙り出すには、そうした社会的状況などを踏まえる必要があり、それなりの研究年月を要する。この点、ディクソンコート及びラマーコートが10年足らずで交代していることや、検討対象を3つのコートに絞らざるを得なかった状況に鑑み、各コートを点ではなく線として考察することの重要性を認識したことは昨年度の研究の成果である。また、今年度は、下記(今後の研究の推進方策等)にもあるように、アメリカ合衆国における憲法解釈についても検討を加える予定であり、両国との比較を通じて、新たな知見を得ることが期待される。 以上の点から、本研究は現在おおむね順調に進展していると評価できよう。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、海外調査を予定しており、アメリカ、カナダ両国の専門家へのヒアリングをはじめ、資料収集や日程が合うのであればシンポジウム等への出席も予定している。具体的には、「各コートにおける時代状況の変化に合わせて構築した憲法解釈方法論の抽出・分析と検討」及び「制度的観点からみる憲法解釈方法論の意義と限界の明確化」を並行して行うことを予定しており、前者については、司法部門パートが、また、後者については、政治部門パートが担当する。その上で、特に司法部門パートは、昨年度の研究成果として得られた、各コート期における線でつながる憲法解釈の歴史や方法論について整理を行ったうえで、学説などの検討を踏まえ、その抽出および検討を行うこととする。また政治部門パートは、政治部門によって憲法解釈方法論がどのように理解されてきたのかという点について、法制度や学説などを検討し、その意義を明らかにする。さらに、両者については、アメリカにおける憲法解釈方法論との関係を意識し、カナダとの連関を踏まえつつ検討を行う。 今年度も前年度同様、半年に一度、東京にて研究会を実施し、研究者間で成果を報告し、最終年度に向けての協議、検討を行う予定である。なお研究会の際には、司法部門パートと政治部門パートにおいて明らかになった点についての報告だけではなく、アメリカにおける憲法解釈方法論についても議論を行い、憲法解釈方法論の抽出およびその意義や限界などについて、多面的な検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
白水に配分された研究費については、当初購入を予定していた書籍(洋書)が、相次いで刊行延期となり購入できなかったことによるものである。また、手塚に配分された研究費についても一部、同様の理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度購入できなかった書籍については今年度刊行予定のため、その購入費に充てる予定であり、著者及び出版社の都合に左右されるものではあるが、購入予定に際しては慎重を期して、今後も一層適切な執行に努める。
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