研究課題/領域番号 |
16K03300
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
白水 隆 帝京大学, 法学部, 講師 (70635036)
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研究分担者 |
手塚 崇聡 中京大学, 国際教養学部, 准教授 (30582621)
大林 啓吾 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 准教授 (70453694)
富井 幸雄 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (90286922)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カナダ憲法 / 生ける樹理論 / アメリカ憲法 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、「各コートにおける時代状況の変化に合わせて構築した憲法解釈方法論の抽出・分析と検討」及び「制度的観点からみる憲法解釈方法論の意義と限界の明確化」に関する研究を行った。前年度と同様に2回の会合を開催し、研究者間で成果を報告し、その到達状況を確認した。まず第1回目の会合においては、1982年以降の各コートにおいて培われた、「時代状況の変化に合わせて構築した憲法解釈方法論」に関する検討を行った。特に前年度明らかにしたディクソンコート(1984年~1990年)で培われた「生ける樹」理論は、ラマーコート(1990年~2000年)においても言及がなされており、その後のマクラクリンコート(2000年~2017年)にも継承されていることを確認した。ただし、近年特に多くの違憲判決において対象となった人権憲章第7条が問題となった事例では、「生ける樹」理論の明確な継承がなされていないこと、また司法積極主義との関係性が希薄である可能性があることを確認した。またこうした確認を踏まえて、第2回目の会合においては、各コートにおける「生ける樹」理論の継承について、人権憲章で保障される権利ごとの整理を行い、マクラクリンコートに至る過程で、第7条以外にも選挙権や平等、先住民の権利に関する事例において継承がなされていることを確認した。ただし第1回目の会合で確認したように、人権憲章第7条に関しては時代状況に合わせて構築した憲法解釈方法が行われていないという限界がありうることを確認した。また制度的観点からは、そうした憲法解釈理論が特に連邦と州の権限配分に関わる問題が争われた事例においても用いられており、人権以外の問題に関しても用いられていることを研究者間で再確認した。なお、いずれの検討においても、アメリカにおける憲法解釈方法論についての議論も踏まえ、多面的な検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017度も、研究計画書に記載のとおり、半年に一度の全体会合を行い、研究者間で各コート期における判例と学説の分析及び検討を行った。各コートを個別の検討対象 とするような「点」ではなく、「線」として位置づける方針に基づき、生ける樹理論が、近年のカナダ最高裁においても引き継がれていることを改めて確認すると共に、その理論的根拠の一端を、判例及び学説の分析を通じて明らかにし、その成果の一部を紀要等で公表した。 他方で、17年度は、制度的観点からの検討が十分になされず次年度に持ち越すことになったことに加え、本年度に計画していた海外調査も実施することができなかった。しかし、前者については、司法部門と政治部門との対話という観点から、次年度1回目の会合で検討することが既に決まっている。また、後者については、研究者の所属先大学の異動や長期在外研究の遂行などが理由であり、研究自体が滞っているわけではない。 以上の点から、本研究は現在おおむね順調に進展していると評価できよう。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2018年度は、まず、17年度にできなかった海外調査を実施し、資料収集やヒヤリングを通じて、判例や学説上の生ける樹理論の理論的根拠や実務における同理論の運用について更なる知見を得ることを予定している。また、外部講師を招き、一般に公開予定の研究会を実施することで、積極的に外部の研究者との意見交換を行う。それらを踏まえて、これまでのカナダ及びアメリカにおける議論が日本にどのような示唆を与え得るのかという点について、特に制度的観点から分析し、一定の結論を出す予定である。 また、本研究において、時代状況に合わせた憲法解釈の当否を 探るだけではなく、それが裁判例において定着しつつある現実を捉え、このような手法が今後、日本においていかなる場面で発展を遂げるのかという点においても何かしらの提言を行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は海外調査を予定していたものの、研究者の所属先大学の異動や長期在外研究の実施、また、調査対象機関との都合がつかなかったことなどから、すべて次年度への持ち越しとなった。そのため、次年度は、より慎重に、計画的な日程を組み、当初予定していた海外調査を遂行する予定である。
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