裁判員制度に関して、今年度は、上訴の問題と死刑判決の問題に焦点を当てて検討した。裁判員の参加した第一審の裁判の判決を裁判官のみによって構成された控訴審が審査し破棄しうることについては、国民の司法参加の意義を否定するものではないかとの批判が見受けられるが、『日本法学』に3回連続で掲載した論稿において、裁判員の参加の正統性につき個別事象を重視する思考枠組みではなく、制度として問題をとらえる思考枠組みによれば、理論的には問題がない(むしろ事実誤認や量刑不当を放任することのほうが、法の支配の見地から許されない)ことを論証した。また、死刑判決に裁判員を関与させることと、死刑選択につき合議体構成員の全員一致を求めないことの合憲性について、下級審裁判例の評釈を発表した。 裁判官弾劾制度に関して、"Judicial Integrity and Deviation in Japan: Judging from Judge Impeachment Cases"と題する報告を国際学会で行った。これは、わが国の裁判官弾劾について、訴追請求された全事例と訴追請求に至らなかった著名な事例を紹介したうえで、司法制度の史的展開の文脈に位置づけつつ分析と考察を行うものである。9000 wordsの報告用論文を作成したが、今後、さらなる検討を加えて、国際ジャーナルに投稿し公表する予定である。 そのほか、裁判の正統性一般の問題に関して、「国民の司法参加の正統化原理」と「AIと裁判」と題する論文を発表した。前者は、わが国における国民の司法参加の諸制度を基礎づける原理について検討したものである。後者は、昨今、非常に注目されている人工知能の法分野への利用可能性の議論に関連して、この新しい技術を裁判手続等にどこまで活用しうるか、技術的な可能性とともに理論的な正統性の問題について考察した。
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