法的に要求される研究倫理審査の実体的基準を定める主体・手続について、再生医療等の安全性等の確保に関する法律を題材にして考察し、次のような知見を得た。 危険な自由制限手法をとることに法律の明確性が要求されるとすれば、同法は情報的価値を規制基準としていない、すなわち研究倫理審査を法的に求めていないと解することが適切である。 憲法論の観点からは、モデル的には、診療についての倫理審査は医療行為の有形的効果の評価にとどまるが、臨床研究の倫理審査には研究の情報的効果の評価も含まれるといえる。再生医療等提供基準は、研究の情報的価値の高低を考慮して医療行為の妥当性を判断することを認めるものと解される可能性がある。 再生医療法は法律の規律が少なすぎ、学問の自由の制限として安全性の確保と研究倫理審査という区別されるべき性格のものが区別されずに、大臣に丸投げされているきらいがある。大臣が定めるべき規制基準についての基本的ポリシーが法律から読み取れないだけでなく、規制の基本的枠組み自体も、法律によって定められておらず、行政機関によって決定されているように見え、憲法上の疑義がある。 複数の学問的組織としての倫理審査委員会の判断の多元的な自律性がありうるところ、それをどこまで法的に規律するのかという問題があるが、全国的に統一された内容の審査を法的に求める政策も、審査機関ごとの審査の多様性を認める政策も、いずれも立法の選択肢となりうる。立法政策では、現実の研究や審査の状況をふまえて、学問の自律性を尊重しつつ、研究対象者の保護や審査の公平をはからねばならない。 研究倫理審査の実体的基準については、学問の自由の観点からは、法的拘束力のある審査基準を命令で定立する場合であっても、法律が定める基本的な制度枠組みの下に、学問共同体の自律的なコンセンサスといえるものにすることが許容され、また、おそらくは望ましい。
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