最終年度には、前年度の「家族と憲法」に関する学会報告を精査し、要旨次のような内容の論文を公表した。憲法13条は、依存的でありうる個人(とくに子ども)のケアのニーズにこたえようとする親密な関係性が自生的に成立することを前提に、そのような自由な私的結合としての家族ないし親密圏を国家から自律的なものとして保護するが、国家の不干渉によってケア責任の公正な分配が必ずしも実現できるわけではない。そこで、憲法24条が家族制度を形成する法律に与えている基本的な任務は、ケア責任を公正に分配し、依存的な個人を適切に保護することであると解される。この点は、医療に関する意思決定等にかかる法的規律に関しても考慮されるべき憲法上の要請である。 また、憲法13条の「生命、自由及び幸福追求に対する権利」の具体的内容について、いわゆる「自己決定権」をめぐる議論を中心に整理した。「生命・身体の処分に関する自己決定権」といった憲法上の個別的権利類型を認めることは適切ではない。医療に関していえば、公権力が実施する身体侵襲をともなう治療を個人が拒否・選択できることは、適切な治療を受けることができる権利を前提に、身体に対する権利やデュープロセスの権利(人として扱われる権利)にもとづいて、公権力が個人の身体に侵襲を加えるときには原則として本人の同意を必要とすることから導かれると解すべきである。 研究期間全体を通じて、本研究では、患者・被験者を保護する目的の公権力による医療規制について、患者・被験者等の「自己決定権」と呼ばれるものの内実、学問コミュニティの自律性・プロフェッションの専門性、民主的公権力の任務と限界に関する憲法上の構図を明らかにした。
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