研究課題/領域番号 |
16K03307
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
正木 宏長 立命館大学, 法学部, 教授 (30388079)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 行政法 |
研究実績の概要 |
平成29年度には、リチャード・J・ピアース・Jr.(正木宏長訳)『アメリカ行政法』(勁草書房、2017)を刊行することができた。同書の刊行作業を通じて、略式規則制定手続や交渉による規則制定手続に対する、現時点でのアメリカ行政法の通説的見解を得ることができた。 平成29年度は、同書により得られた知見を深めるという観点から、アメリカの規則制定手続に関する研究を行った。この作業を通じて、1990年代にアメリカ行政法学では規則制定の骨化が主張されたが、2000年代に入り、骨化理論に対して実証的観点から疑問を呈する主張がなされていること。規則に代えてガイダンスを制定することで告知コメント手続を免れるというガイダンスへの逃避がアメリカの行政機関で見られること。交渉による規則制定手続は2000年代に入り使用が減少していること。暫定最終的規則制定や直接型最終的規則制定といった規則制定手続の新手法が実務上導入されていること。駆け込み規則制定の問題がクローズアップされ、それに対して学界の検討が進んでいること。そして、告知コメント手続におけるコメントの評価モデルとして、「国民投票モデル」と「価値を持つコメントの考慮」のモデルが提示されていることが明らかになった。 そこで上のような知見を踏まえたうえで、「アメリカにおける規則制定手続の新動向」というタイトルの論文を執筆した。この論文は平成30年度に公刊されることになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定通りの研究を遂行することができた。また、アメリカ行政法の概説書を翻訳することで、当初の予定を超えてアメリカ行政法の全体像も示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、予定通り、近時アメリカで主張されている新形態の行政参加手続について研究を行う。検討対象としては次のようなものが考えられる。 まず、「情報市場」により、行政機関が情報を収集するモデルである。これは、情報提供者を募ったうえで、行政機関が採用する正しい解答を提示した情報提供者に対して多額の報酬を提供することによって、参加者に適切な解決策を提案するインセンティブを与えるというものである。 次に、「陪審」モデルである。これは、行政機関が政策問題について解決策を得るために、無作為に抽出した市民によって「陪審」を組織し、その評決を政策問題に反映しようという考え方である。 また、多様な背景を持つ市民を選別して合議体を組織し、その合議体の熟慮の結果を行政決定に反映させるという「市民諮問委員会」の構想も検討対象となる。 さらに前年度までの研究の進捗状況をふまえて、上記の研究に加えて、パブリックコメント手続や交渉による規則制定手続の研究を継続する。
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