研究課題/領域番号 |
16K03309
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
中島 茂樹 立命館大学, 法学部, 授業担当講師 (10107360)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大学の自治 / 大学ガバナンス / 大学改革 / 指定国立大学法人 / 専門職大学 / イノベーション |
研究実績の概要 |
イノベーションへの対応策としての大学構造改革という観点から見て、本年度特徴的な動向の第一は、2015年に防衛装備庁が発足させた「安全保障技術研究推進制度」である。2015年度に3億円の予算で発足し、2016年度は6億円に倍増し、2017年度には110億円に膨れ上がっている。大学の軍事研究に反対する日本学術会議の「軍事的安全保障研究に関する声明」(2017年)が出されたこともあって、今後の動向が注目される事態となっている。 第二は、高等教育の再編・種別化の動向である。(1)すでに、2014年12月、産業競争力会議(新陳代謝・イノベーションWG)は、2016年度からの第3期中期目標期間、国立大学に、「地域活性化・特定分野重点支援拠点」、「特定分野重点支援拠点」、「世界最高水準の教育研究重点支援拠点」の三類型を選択させ、「機能分化」を図るとしたが、この線に沿った大学構造改革が一段と加速化している。(2)2017年の国立大学法人法の改正により、一部の国立大学法人を対象に政府が別立ての中期目標を与え、「世界最高水準の教育研究活動」を行わせる「指定国立大学法人」制度も発足した。(3)2017年の学校教育法改正により、制度上は「大学」に含まれるという体裁を取っているものの設置基準は大学とは別立てとされ、高等教育を実質的に複線化する「専門職大学」制度が発足することになっている(2019年4月)。(4)私立大学に対しても、文科省は、「私立大学総合改革支援事業」補助金により大学をタイプわけし、特色化と予算・入員などを集中させる方向へ誘導する措置が加速化している。 本年度は主として、上記のような「軍産学連携」や高等教育制度の再編・種別化を目的とした強力な国家関与が「イノベーション政策下の大学改革」として推し進められている点について、研究の進展を見ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、大きく(1)イノベーション政策下おける大学改革のモデルとしてのアメリカ研究、(2)ドイツにおける「ボローニャ・プロセス」への法制度的対応の研究、(3)日本の国立大学法人と私立大学の研究の三つに分けていた。 このうち、わが国の高等教育政策の展開過程、大学法制と行財政上の関与システム、大学評価システム、そしてこれとの関わりで、理事会や役員会の構成・役割・機能、学長の選考方法、学長権限と教授会権限などの点での大学の構造的変容が「学問の自由」・「大学の自治」にどのような問題を招来しているのかについての検討は、とりわけ防衛装備庁が2015年に発足させた「安全保障技術研究推進制度」にみられる「軍産学連携」や、「指定国立大学法人」制度、高等教育を実質的に複線化する「専門職大学」制度などの高等教育制度の再編・種別化について一定の研究の進展を見ることができた。 アメリカの大学ガバナンスについては、理事会、執行部、教員組織の三者がそれぞれの立場で大学運営に参加し、相互にチェックする「共同統治(shared governance)」に特徴があり、そこでは、(1)大学のオーナーは理事会、(2)理事会が学長を任命し、学長以下の任命権が学長に属す、(3)理事会は多数決が原則、(4)学長以下ヒエラルキーが徹底し、学長は独断で決定することができる、(5)唯一の例外は教授会だが、決定権はもたない、(6)教授会は、役職のない教員が形成し、理事会議にも参加するが、諮問機関的な役割を果たす、といったことが明らかになってきた。 ドイツの大学ガバナンスについては、かつては、連邦高等教育大綱法が制度の大綱的枠組みを定め、これに基づき各州の高等教育法がその詳細を定めていたが、2006年の基本法改正により、各州法の規定に委ねられものに変更されている。今後、州法のレベルでの検討が課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
「イノベーション」という言葉は、第3期科学技術基本計画によれば、「中国、韓国等のアジア諸国の台頭で熾烈な競争に直面している我が国産業が競争力を確保するためには、我が国発の付加価値の高いイノベーションを生み続ける科学技術に取り組むことが重要な政策課題である」との位置づけがなされている。その背景にあるのは、国家間の国際競争の激化、高等教育の劣化などにより、このままでは日本の競争力が一挙に低下し、国家存亡の危機に陥る可能性があるという現状認識である。「絶えざるイノベーション創出」のための科学技術システム改革と「イノベーション人材育成」へ向けた高等教育システム改革は、こうした危機打開のための産業競争力強化に向けた経済政策の中に位置づけられ、それは、「競争的環境の醸成」と「産官学の連携」というキーワードの下に具体化が計られてきた。 こうして、この間の一連の大学・大学院改革は、(1)文科省主導によるミッションの再定義、(2)大学改革に積極的に取り組む大学を重点的に支援する国立大学改革強化推進事業、(3)機能強化の方向性に応じた国立大学法人運営費交付金の重点配分といった形で具体化されたが、それらが必ずしも所期の目的を達成できたとはいえない、というよりもむしろ、日本経済新聞社が実施した「若手研究者アンケート」によれば、主として雇用の不安定化(公募制、任期制)、研究時間の減少、研究予算の不足などから「日本の科学技術の競争力が低下した」が8割にのぼり、「イノベーションの土台が揺らいでいる現実が浮かび上がった」というのが実情のようである(日経2018/05/06)。 そこで、本研究は、大学のガバナンス改革一般という枠を超えて、産業競争力強化という経済成長戦略に包摂された科学技術政策および大学・大学院改革という視点をさらに前面に押し出しながら進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月末に、主として資料収集等のため名古屋大学への出張を予定していたが、相手方教員との面談予定が直前になってキャンセルとなった。 次年度前半に再度出張の予定を入れたいと考えている。
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