今年度の研究実績の概要は次の通りである。(1)論文:『社会保障裁判研究』所収予定の「中嶋訴訟」を執筆したが、刊行が遅れており、公刊に至っていない。本論文では、学資保険の満期返戻金を収入認定する処分の違法性が争われた中島訴訟について、判決文及び訴訟資料までを渉猟した上で、最高裁判決の論理を検証した。その結果、生活保護世帯の高校進学の途を切り開いたとされるこの判決においてすら、高校進学の教育的意義についての理解が不十分だったのではないかと指摘した。 (2)研究発表:「学校給食費をめぐる諸問題の論点整理」(福祉権理論研究会)を行った。本報告では、学校給食制度の展開をふまえた上で、学校給食費に関する3つの問題(給食費未納、給食費無償、諸外国の動向)を検討した。具体的には、1)従来より低水準であった給食費未納率にはあまり変化が見られないこと、2)給食費無償あるいは一部補助に取り組む市町村が全国的に広がりつつあり、中核市でも給食費無償が実現したこと、3)韓国全土やアメリカ・ニューヨーク市などで給食費無償の動きがあることを報告した。本報告は、給食費問題の現状を公法学的視座から概観した点で意義を有するものと考えられる。 (3)その他:産経新聞 2019 年10月2日「食材は 軽減税率なのに...給食費アップ自治体の対応に広がる波紋」にコメントした。このコメントでは、給食食材は軽減税率の対象であるにも関わらず、給食費アップに踏み切った市町村があることについて、1)今回の消費増税を見越して前倒しで値上げした市町村があること、2)増税前から食材価格が高騰しているとはいえ、このタイミングでの値上げは妥当でないこと、3)韓国では9割をこえる地方自治体が無償に踏み切っていることに照らして、日本でも都市部で率先して無償化に取り組むべきであるとした。
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