研究課題/領域番号 |
16K03312
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
中村 繁隆 関西大学, 会計研究科, 准教授 (20581664)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | EU合併租税指令 / 国際的組織再編税制 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、EUにおける国際的組織税制の進展の理由を明らかにするため、合併租税指令(Merger Tax Directive. 以下、同じ)に関する研究を主として行った。 EUにおける国際的組織税制の進展は、1990年に出された合併租税指令とその後の複数の修正によって、国際的組織再編成に関する多くの租税障壁を除去してきたことに拠る。また、合併租税指令に加え、2001年の欧州会社(SE)規則と欧州協同組合(SCE)規則、さらに2005年の第10会社法指令等が、EUにおける国際的組織税制の進展に貢献している点も見逃せない。 ただ、合併租税指令の上記修正にもかかわらず、依然として国際的組織再編成に対して、十分に機能しているとは言い難いとする識者の評価が多い。具体的には、合併等の時点における課税問題という短期的な視点からの対応は良好な評価を得ているが、税法上の損失や透明な事業体(hybrid entity)の取扱いをはじめとする長期的な視点からの対応については、厳しい評価を受けている。以上から、EUにおける国際的組織再編税制の望ましい方向として、合併租税指令自体の整備が第一に必要であるだけでなく、会社法との関係や他の指令の補完を検討すべきであるという指摘がなされている〔Frederik Boulogne, “Shortcomings in the EU Merger Directive”, Wolter Kluwer(2016), at 1-3〕。 なお、EUにおける国際的組織再編税制の進展において、欧州司法裁判所(ECJ)判決の影響も見逃せない。 以上より、望ましい国際的組織税制のフレームワークとしては、合併租税指令を基礎としつつも、上記の通り、その他複数の要素の組み合わせを総合的に捉える必要があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は、交付申請書の記載のとおり、平成28年度から平成30年度までの3年間をその研究期間としている。初年度である平成28年度は、EUにおける国際的組織税制の進展の理由に関して、合併租税指令の変遷等を辿りながら明らかにすることを目的としていた。平成28年度の研究によって、望ましい国際的組織税制のフレームワークには、合併租税指令を基礎としつつも、会社法その他複数の要素の組み合わせを総合的に捉える必要があることを認識することができた。それらの詳細は、次年度以降に研究を行う予定である。以上から、平成28年度の研究はおおむね予定していた研究を行うことができ、平成29年度の研究テーマへとつなげることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、まず、今年度にあたる平成29年度は、以下の4つの個別論点を研究する予定である。それは、(合併租税指令の対象となる)「取引範囲」、「(合併租税指令の適用を受けることができる)適格会社」、恒久的施設(PE)を含む再編、「透明な事業体を含む再編」である。さらに、最終年度となる平成30年度では、まず4つの個別論点(「欧州会社(SE)と欧州協同組合(SCE)の再編」、「濫用防止規定」、「出国税との関係」および「国境を越えた損益通算」を研究する。そして、上記8つの論点に加え、会社法や他の指令の内容等を有機的に結合させて総括を行う。最終的には、わが国の国際的組織再編税制の課題を浮き彫りにし、同税制の望ましい方向性を示したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究は、おおむね順調に進行した。今年度は主として文献研究を行ったが、研究代表者は、本研究費以外の他の研究費から文献を購入することができたことや、すでに保有していた書籍等を利用することによって、その費用を抑えることができたことから、次年度使用額が生じた。また、注文済の書籍が未着であることも次年度使用額を生じた一因でもある。なお、次年度においては、文献調査等のために外国出張を予定していることから、次年度はより多くの研究費が必要になると予想している。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額となった256,537円は、上記理由で示したように、次年度における外国出張による比較法研究に上乗せして利用することを計画している。具体的には、オランダIBFD図書館やドイツその他のヨーロッパ諸国を対象とした大学図書館を訪問等するためである。平成29年度の研究費は次年度使用額と合わせて、これらの調査を8月~9月ごろに実施するために利用される。その他、文献収集および資料整理、複写費にも使用する予定である。
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