平成30年度では、EU合併租税指令(Merger Tax Directive. 以下、MTD)を分析対象として、わが国の国際的組織再編税制における株主段階課税のあり方を含む総合的な検討を行い、以下の研究成果を示した。 まず、株主段階課税のあり方について、拙稿「国際的組織再編税制における株主段階課税-EU合併租税指令8条による検討-」(現代社会と会計・2019年)において、MTD8条を中心に研究を行った。株主段階課税の今後の方向性として得られた結論は、現行の組織再編税制における取扱いに加えて、MTD8条から得られた2つの示唆を追加することである。具体的には、第一の示唆とは、居住者等株主か非居住者等株主を問わず、課税繰延の適用条件に課税所得要件を加え、かつ、課税漏れ部分をタックストリーティオーバーライドのリスクを回避すべく、課税繰延の対象となる税額の範囲を制限的に決定することである。なお、課税所得要件とは、MTD4条2項(b)の後半に規定された要件であり、そもそもは法人段階において課税繰延を認める要件である。また、第二の示唆とは、相手国において非居住者等株主の取得価額がステップアップされた場合、当該非居住者等株主に対して即時課税する規定を導入することである。 次に、わが国の国際的組織再編税制における人的適用対象である「法人」概念の不明確さに伴う法的安定性の問題について、「国際的組織再編税制における法人概念」というタイトルで研究報告を行った(総合法政策研究会第6回、2018年7月22日)。本報告の成果は、上記の法的安定性の問題をMTD及びMTDに対する修正案から、OECDモデル租税条約3条1項(b)のcompany概念を使用し、かつ、MTD3条(c)項の課税対象要件(Subject-To-Tax Requirement)を課すことによって、対応し得る可能性を示したことにある。
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