研究課題/領域番号 |
16K03313
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研究機関 | 四天王寺大学 |
研究代表者 |
春名 麻季 四天王寺大学, 経営学部, 准教授 (20582505)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 憲法 / ドイツ基本権 / ヨーロッパ人権法 / 家族法 / 比較憲法 |
研究実績の概要 |
2年目となる平成29年度は、初年度に引き続き文献研究を基軸として研究を進めるとともに、9月にはドイツのベルリン・フンボルト大学ヨーロッパ法研究所、ハンブルク大学法学部への出張を行い、ドイツ基本権論・ヨーロッパ人権論における「人間の尊厳保障と婚姻・家族の保護」に関する在外調査研究も行った。そして、平成29年度の主な研究内容としては、①「社会的事実としての「婚姻」・「家族」の変遷」、②「婚姻・家族の憲法上の位置づけの確定」についての確認を行い、そのために憲法関連図書、人権判例関連図書を購入することで日本の問題を明らかにするとともに、本研究における比較対象として取り上げているドイツおよびEUに関して、ドイツ憲法関連図書、EU法関連図書を購入し、それぞれの国・地域での具体的問題の内容について検討した。 その成果として、「人権の基底的原理としての「個人の尊重」についての一考察―夫婦別姓事件合憲判決を素材に―」(井上・門田編『憲法理論とその展開-浦部法穂先生古稀記念論文集』371~392頁)を執筆・公表した。そこでは、日本の最高裁の判断から引き出される問題に対してドイツ・ヨーロッパの議論、制度変遷の内容を確認したうえで、以下のような結論を提示するに至った。すなわち、夫婦同姓自体は憲法上問題はないものの、少なくとも「個人の尊重・尊厳」の保護から導き出される個人の自己決定の尊重という観点からみれば、ある特定の婚姻観に基づく夫婦同姓制度に対して、その例外を認めないことで法律婚を断念しなければならない状況を助長しているという事態が確認でき、そうだとすれば、そこには制度設計における矛盾が存在するが故に、やはり「個人の尊重・尊厳」という人権の基底的原理に触れる可能性が高いという理由から、同姓を唯一の方法として当事者の選択の余地を残していない制度選択にはやはり憲法上問題があるということである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的をより効率的に実現するためには、文献研究のみにとどまらず、課題検討のための比較対象となるドイツやヨーロッパでの在外調査研究も必要であるところ、平成28年度と同様、日常業務に加え、夏季と春季の講義期間外においても、教育活動等の大学業務に従事しなければならず、在外調査研究を実施するまとまった時間を確保することが困難であった。平成28年度に一度も在外調査研究を実施できなかったため、平成29年度には、ドイツ・ヨーロッパおよび台湾EUセンターでの在外研究を予定していたが、上記理由に加え、訪問先大学の教授との日程調整が困難なことも手伝って、ドイツでの在外調査研究の一度のみにとどまった。 さらに、所属機関において人間関係のトラブルに見舞われ、解決のために時間と労力を費やし、心身ともに疲弊し、労働意欲とともに研究意欲も減退して、体調不良が続いた。とくに年度末は遅れている研究計画を少しでも進める重要な時期であるにもかかわらず、大学に勤務することすら叶わず、療養に努めたため、本来平成29年度に実施する予定であった研究計画内容を平成30年度に繰り越さなければならなくなったことが遅延の理由としてあげられる。 したがって、上記の理由から本研究進捗状況としてはやや遅れていると判断せざるを得ない。ただその中でも、最低限の内容として、研究実績において示した通り、婚姻に関する夫婦同姓制度の問題という具体的場面での憲法・ドイツ基本法上の議論に関して、その研究内容をまとめ、公表することができたため、平成30年度ではこれまでの遅れを取り戻すことができるのではないかと自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成30年度は、これまでの研究を踏まえ、その遅れを取り戻し、さらにその内容を深化させるとともに、本研究のまとめへと向かうことを計画している。そのために、これまでと同様、日本およびドイツ・ヨーロッパの憲法・人権関連の文献を購入し、文献研究を基軸として、具体的な憲法問題の内容を精査する予定である。さらに、研究会に参加し、それらを通じて専門の研究者に本研究のまとめとなる内容に関する当否を問うてみると同時に、特に同性カップルの生活共同体の形成を広く認めるドイツ・ヨーロッパの制度と基本権・人権の関係の研究も行う。 いっぽう、2年間で一度しか実施できなかった在外調査研究について、比較法的視点からの調査研究を推し進めるために、ドイツやベルギーをはじめとするヨーロッパへの出張を行い、ワークショップ等での報告と現地での調査研究を行うことも同時並行的に計画する。さらには、まだ実現できていない台湾EUセンターにも赴き、調査研究を行う予定である。それは、日本法を母法して、そして第2次大戦以降は日本法を参照しながら法制度の整備を進めてきた台湾において、最近では日本と同じようにヨーロッパの法制度研究が進められているという点で、本研究の具体的内容の検証のためにも必要であると考えられるからである。 なお、これまでの研究活動において、本研究課題の内容となりうる社会的制度としての婚姻・家族の憲法上の問題は、これまで当たり前と考えられてきた制度とは異なる選択を欲し、一般常識からみれば少数者とされる個人の問題へと収斂される可能性を持つことが分かった。そこで、その問題は広く共同体において疎外されている個人の尊重・尊厳の問題にも通じるということができ、法学的文献だけでなく、文芸的作品において取り上げられる「個人の尊重・尊厳」にかかわる内容の分析を通して新たな知見獲得も目指していくことにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
先に「現在までの進捗状況」において示したように、所属機関における様々な(公的・私的)問題から、平成29年度での本研究の遂行に支障をきたしたため、交付を受けた助成金を使い切ることができなかった。そのため、平成29年度に予定していた計画とそのための費用を平成30年度に繰り越すことを余儀なくされたことが、次年度使用額が生じた理由である。 なお、平成30年度には、本研究の遅れを取り戻すように研究実施計画を企画・立案しており、文献購入とともに、国内外での調査研究を実施することを予定している。
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