研究課題/領域番号 |
16K03317
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
竹下 啓介 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (60313053)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 国際私法 / 国際民事手続法 / 外国判決の承認執行 |
研究実績の概要 |
平成29年度においても、外国判決の承認執行に関する古典的文献の講読を中心として研究を遂行しつつ、平成28年度において特定された検証が必要な事項について、更に分析を行った。特に、従来、日本においては私人の利益を中心として分析されてきたこれらの制度の意義について、外国判決を承認する国家の視点からの分析を深めた。 特に、非訟事件裁判と訴訟事件裁判の承認の問題の区別の可能性について、近時指摘される外国の行政当局の判断についての承認の可能性に関する議論も踏まえて、分析を行った。そして、これらの問題の分析に当たって、司法と行政との明確な区別といった国家の権能の基本的な区別を意識することの重要性が確認された。すなわち、現在の議論において、これらの問題は連続的なものとして捉えられているものの、その前提には、意識的にであれ無意識的にであれ、国家における司法と行政の区別を行わないという前提があると想定され、そのような前提の下でこれらの制度の連続性を否定することは困難であるが、双方の区別を行う場合には、裁判を受ける権利の確保といった点で異なる取扱いを行う可能性が開けることを確認した。ただし、司法と行政の区別といった点は各国において必ずしも一義的なものではなく、各国における区別の差異が、それぞれの国における外国判決・裁判・行政当局の判断の承認といった考え方にいかなる影響を与えるか、更なる研究の必要性についても、認識された。 具体的な研究成果としては、平成29年度には、本研究における成果も踏まえて、外国判決の承認・執行における研究報告を複数回実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
外国判決の承認執行制度の世界的な統一という本研究のテーマを考えるに当たって、国家における司法と行政の区別といった点が問題となることが明らかとなったが、そのような区別自体が各国毎に異なり得るものであるため、その点に関する基礎的な知見の調査を行いつつ、外国判決の承認執行制度の考え方との関連性を探るといった研究を実施する必要があった。このような作業の必要性は、研究当初には予定されておらず、その結果、平成29年度末の状況としては、当初の想定よりはやや遅れている状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
研究の最終年度である平成30年度においては、これまでの研究成果を論文乃至著書の形にまとめるべく、それらの執筆に重点を置いた研究を遂行する予定である。特に、国家における司法と行政の区別といった視点から、外国判決の承認制度を捉え直すことで、従来必ずしも日本において明らかとされてこなかった、国家の視点からの制度の叙述を研究成果として公表する予定である。平成29年度に予定していたよりは研究の進捗状況は遅れているものの、鍵となる視点についての知見を得ることができたため、遅れを取り戻しつつ、研究を完成させることが可能であると考えられる。 また、引き続き、ハーグ国際私法会議における外国判決プロジェクトに参加する予定であり、参加者との議論を踏まえて、現実的な制度の世界的統一に関する問題点も意識して、研究成果をとりまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の未使用額について、平成29年度に司法と行政の関係に関して異なる考え方を有する中国の法制度の調査のために出張を多く行い、研究費を使用したが、それでも未使用額の全額を使用することはできなかったため、次年度使用額が生じた。この点、平成30年度においては、海外出張を予定しており、最終的には、科研費研究機関全体で全ての配分予算を使用して、研究を遂行することとなると想定される。
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