研究課題/領域番号 |
16K03321
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
洪 恵子 南山大学, 法学部, 教授 (00314104)
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研究分担者 |
竹内 真理 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (00346404)
竹村 仁美 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (10509904)
坂巻 静佳 静岡県立大学, 国際関係学部, 講師 (10571028)
廣見 正行 上智大学, 法学部, 研究員 (20707541)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 人道に対する犯罪 / 国際刑事法 / 国際法委員会 / 国際刑事裁判所 / 国際立法 |
研究実績の概要 |
本研究は、重大な国際犯罪の一つである「人道に対する犯罪」に関して、国家間での防止及び処罰の枠組を定める多数国間条約を立法しようとする国連国際法委員会(ILC)の作業について、その意義と課題を国際法学(国際刑事法学)全体の歴史的・体系的観点から考察するものである。 「人道に対する犯罪」に関しては、既に国際刑事裁判所(ICC)において条約化されているが、ICC規程はICCと締約国との間の「垂直的」関係における処罰義務を設定したものである。これに対し、ILCの試みは、ICC規程の非締約国を含め、国家間での「水平的」関係における処罰義務、さらには防止義務を国際社会において確立しようとするものである。 しかし外交会議と異なり、ILCは新規立法を行う機関ではなく、既存の慣習国際法(不文法)の内容を明確にし法典化する機関であるため、その試みがILCにおいてどの程度まで達成可能かが問題となる。本研究は、条約立法作業が国際法学(国際刑事法学)の歴史・体系という視点からどのような意義を有し課題を帯びているかを検討した上で、現在進行中の立法審議にその知見を還元しようとするものである。 2016年度は、ILCにおいて同条約立法に関する第二報告書が審議されたところ、新規立法と法典化の相違という基本的事項を再確認した上で、第二報告書において提示された各条文草案に対し、その問題点や妥当な方向性を示したペーパー「Draft Comment on the Second Report on Crimes against Humanity」を作成した。同ペーパーは2016年5月に開催されたILC第68会期の審議において村瀬委員によって取り上げられ、その論点は委員の間で共有され、審議に反映された。このペーパーをもとに、各研究者が分担された論点につき研究を進めており、論文のかたちでまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度は、ILCにおいて同条約立法に関する第二報告書が審議されたところ、報告書に提示された①条約で定めた人道犯罪を各国国内(刑)法において刑罰として担保・立法する義務、②裁判権の設定義務、③被疑者特定のための捜査及び国家間での司法共助、④容疑者の引渡し、⑤被疑者の公平な取扱等の論点につき、その妥当性や問題点を審議し、2016年4月23日に上智大学で開催された(第3回)ILC研究会において報告を行った。 その結果、①国内法での刑罰化に関して、条約で定義された犯罪を一字一句そのまま国内刑法に定めなければならないか、②人道に対する犯罪は性質上組織的に実行されるため、組織犯罪処罰を回避する方針が妥当であるか、③被疑者特定のための証拠収集につき拷問禁止条約の捜査規則を類推しているが、拷問のように国家機関が秘密裏に行う犯罪と異なり、人道に対する犯罪は「広範又は組織的なもの」として実行されるため類推可能か、④容疑者の訴追に関して、人道に対する犯罪が内乱や内戦において行われるケースが多く、犯罪行為地国が和解と和平のために容疑者を恩赦する実行は処罰義務違反に当たるか等の個別の問題点を明らかにした。その上で、これら論点をまとめた意見書「Draft Comment on the Second Report on Crimes against Humanity」を作成した。同ペーパーは2016年5月に開催されたILC第68会期の審議において村瀬委員によって取り上げられ、その問題点は委員の間で共有され、審議に反映された。とりわけ組織犯罪処罰に関しては、ILCにいて方針転換がなされ、正式に取り上げられることとなった。 以上を踏まえ、2017年2月18日に上智大学において研究代表者及び研究分担者全員で勉強会を行い、昨年度のILCでの審議の総括と来年度に向けた論点について検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、既にILCにおいて第三報告書が提出されているところ、①容疑者の引渡、②ノン・ルフールマン(容疑者が迫害を受けるおそれのある国への引渡の禁止)、③国家間での司法共助、④裁判における被害者、証人の取り扱い、⑤国際刑事裁判所との関係等の論点につき、前年度同様に問題点や改善策をまとめた英語意見書を作成し、ILCでの審議に還元する予定である。ILC研究会(第4回)は2017年4月23日に上智大学で開催されることが予定されており、同研究会において問題点・改善策等について研究者全員で報告を行う予定である。また、今年度はILCにおける審議を研究分担者・廣見正行が傍聴する予定である。 また、昨年度までのILCの作業が、「人道に対する犯罪」に関する条約化作業であるにもかかわらず、とりわけ刑事手続に関する規則について、他の犯罪条約(拷問禁止条約、強制失踪条約等)に定められた規則をコピー・アンド・ペーストする形で作業が進められている点につき、「人道に対する犯罪」に固有の特徴を意識すべきであり、他の犯罪との性質の相違から、そのような方法論の問題点について、英語論文として発表する方針で研究代表者・分担者が研究執筆を進める予定である。 ILCでの作業は、今年度で第一読条文草案が完了するところ、2017年8月を目処に、過去3年間にわたるILCでの条約化作業を総括する勉強会を開催するとともに、ILCでの成果物を踏まえ、各研究者が①新条約の歴史的評価、②新条約と既存国内法との関係、③新条約における国家間協力の意義と課題、④刑事裁判権からの免除、⑤新条約とICCとの関係といった論点について、2018年度の論文公表・学会発表を想定し、国際法学(国際刑事法学)全体の歴史的・体系的観点から研究を一層進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
検討対象の国際法委員会(ILC)の作業状況に変更が生じ、それに伴って研究会開催が予定より1回ほど少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度に昨年度予定していた内容の研究会を開催する予定である。
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