本研究は、世界各国で進行している国際商事裁判所設立の動向を、国際仲裁との相互作用に着目しながら継続観察し、その分析を通じて国際ビジネス紛争解決 制度構築のための研究領域形成の端緒となることを目的とする 。 2019年度においては、これまでの研究活動を踏まえて、ロンドンにおける国際ビジネス紛争解決全体に関して生じた状況の詳細をまとめた論文を公表した。そこでは、国際仲裁の活性化において、国家の裁判所による支援が極めて重要であり、国際仲裁の自律性を尊重するという消極的や立場を超えて、裁判所が積極的な支援を行う姿勢がロンドンの商事裁判所において取られていることを明らかにした。またその際に、国際仲裁の実情を正しく理解した裁判官による仲裁の監督的管轄(Supervisory Jurisdiction)という法概念が形成されてきており、そうした役割を果たす上で国際ビジネス紛争を多数扱ってきた商事裁判所の役割の重要性が明確となった。また、紛争解決のための資源全体の効率的な配分という視点から、商事裁判所におけるケースマネジメントの重要性は大きく、国際商事調停等のADRの活用に関しても、監督的な役割を果たしつつあることが判明した。 本年度はさらに、国際ビジネス紛争解決において仲裁と並ぶ役割を担いつつある国際商事調停についても研究を進め、2018年に国連総会において採択されたシンガポール調停条約について、11月に国際商取引学会全国大会で学会報告を行った。またその報告に基づく論文を同学会に提出し、2020年夏に刊行が予定される同学会の年報に査読の結果掲載が確定している。同条約は、国際商事仲裁において得られた和解合意に国際的な執行力を付与することを目指す野心的なものであるが、早くも発効が確定している。また、日本商事仲裁協会の新しい商事調停規則に関する論文のJCAジャーナルへの掲載が確定した。
|