本研究は、国際司法裁判所(ICJ)に対して「①誰が」「②何を」請求できるのかを判例分析を核として探求することをその目的とした。 平成28年度は、当事者適格(上記①の問題)を検討した。判例上、訴訟法上の利益概念は、直接的・個別的な利益のみならず、一般的・間接的な利益をも包含するものとして定式化され、そこには実体法上の法状態・法関係の明確化が含まれ得る柔軟な概念として把握される。それ故、実体法上の利益概念の展開に対応する形で、訴訟法上の利益における「具体性」や「直接性」をはかる基準が緩和されており、そのことが実体法規範上の利益保護を訴訟において主張し得る当事者の範囲(当事者適格)を拡張しているということを実証的に明らかにした。 平成29年度は、救済方法(上記②の問題)のうち、違法行為中止の検討を進めた。違法行為中止請求は継続的違法行為に対してのみ可能であり、その判断基準は判決時現在の法関係に影響する行為か否かであることが判例上確認できたが、それ以外の考慮要因を見い出せなかった。また、南極海捕鯨事件の分析および調査捕鯨に関連する事案の検討から、協力義務が争点となる場合、当該義務を規定する条約体制を踏まえて義務内容を如何に把握するのかが違法行為中止請求の判断に影響を及ぼすことを明らかにした。 平成30年度は、救済方法(上記②の問題)の再発防止保証に焦点をあてて検討を行ったが、その法的性格と内容について学説および訴訟当事国の主張は分岐していた。判例上、請求認容判決は存在しないが、ICJは信義誠実の推定を前提とする「特別の事情」基準を判断枠組として提示しており、これにより国家実行の促進を試みているものと解される。 以上より、本研究は当事者適格の拡張と救済方法の多様化の構造を解明し、それらが公法的秩序の形成を促していること(=裁判の法秩序維持機能)をICJに関してはほぼ明らかにした。
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