研究課題/領域番号 |
16K03330
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
北村 泰三 中央大学, 法務研究科, 教授 (30153133)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 国際人権法 / 人権条約 / 正当性 / ヨーロッパ人権条約 / EU法 |
研究実績の概要 |
平成28年度において本研究課題に関連する研究業績として2つある。 The Influence of the International Covenant on Civil and Political Rights on Prisoners’Rights and Criminal Justice in Contemporary Japan, Japanese Yearbook of International Law, Vol. 59, pp. 99-155, March 2017, 本稿は、わが国の刑事司法及び刑事被拘禁者の権利に自由権規約がどのような影響を与えてきたかという観点から、自由権規約の実施システム上では、わが国政府との間の建設的対話がどの程度、実質的な法の変化をもたらしたかを検証したものである。わが国について自由権規約の規定は、相当程度の影響を及ぼしてはいるが、わが国の刑事司法制度の根幹に関わる問題(例えば、死刑の存置や代用監獄問題)については対話の影響は及んでいない。条約実施システムの正当性という視点からより効果的な国内実施の条件を探ることが今後の課題となる。 次に、「EU市民権としての居住、移転の自由の一側面――「福祉ツーリズム」批判と欧州司法裁判所の判断をめぐって」(法学新報123巻5-6号、171-206頁、2016年11月)をまとめた。本稿は、EUにおける人の自由移動原則の確立にともない、より社会保障制度の充実した他の構成国に移り住む現象が生じているとの問題(これを福祉ツーリズムという)に対してEU裁判所がどのようにEU法を解釈適用しているかという問題を論じたものである。EU裁判所は、構成国は、他の校正国から移住してきた短期の滞在者に対して(わが国でいう生活保護のような)手当金を支給する義務はないと判示していることに着目したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題に関連して、立憲的多元主義というアイデアの有効性を考察することを課題としている。多元主義を基本とする国際社会において、なおかつ立憲的視点から人権規範の正当性を論証するためには、文化相対主義を超える国際人権規範の存在を論証し、正当化することが可能か否かについての考察が必要とされる。そのために従来関心を抱いていた、文化多様性を踏まえた国際人権規範の国内実施という視点を更に推し進めて行く方針である。 他方で、ヨーロッパ諸国間における人権をめぐる正当性の議論をフォローしておく必要もある。具体的には、EUの欧州人権条約への加入問題は、2014年12月のEU裁判所の意見を契機にして根本的な問題が指摘された。この問題は、人権に関する終局的な判断権をめぐる人権裁判所と欧州司法裁判所との間の構造的な対立をはらむ問題であると同時にEU及び加盟国の立憲的構造がからむ問題であり、欧州人権条約の履行監視制度の正当性がまさに議論の中心となる。この問題についても考察を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、「国際人権条約上の履行監視機関の正当性(legitimacy)」の条件を明らかにすることを目的としている。これまでの研究では、ヨーロッパ人権条約及び国際人権規約の履行状況を考察してきたが、国際人権条約の履行システムの正当性を論じるためには、ヨーロッパ的な人権観のみならず、他の国や地域における価値観、人権観をも反映したものであることが求められるであろう。その意味では、わが国を含むアジア諸国においても国際人権法の妥当する基盤があることを論証しておく必要がある。わが国の場合には、明治以降の西欧、及びアメリカ法の継受という歴史的遺産(レガシー)を背負っているが、他のアジア諸国においても支持されているかを検証することが課題である。 そのためには、アジア諸国において国際人権法がどのような影響を与えているかを具体的に考察する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、従来の科研費研究課題の取り纏めて出版計画を実施する必要があったために、本研究のために予定していた外国出張の機会を逸してしまったことが大きな理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
In the last year, I could not make use of an opportunity to go abroad for the research concerning this subject, mainly because it was so busy to publish a book, entitled "Cultural Diversity in International Law; from the perspectives of human rights law and development." This is a fruit of the previous research subject carried out under the JSPS grant program.
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