平成30年度は、人権侵害救済請求と主権免除規則との関係を検討するとともに、実際に執行免除が争われた事例を分析して、制限免除主義が妥当する執行免除が拡大している根拠を検討した。 第一に、刑事手続を基礎とする国家財産に対する強制執行の事例を検討した。人権侵害救済請求が基礎になっていることから、人権侵害救済請求と主権免除規則との関係についても検討を加えた。 第二に、人権侵害救済請求と執行免除の関係について、米国におけるイラン中央銀行に対する強制執行事例を検討した。米国外国主権免除法の新テロリズム例外に基づき、米国において中央銀行財産の執行免除が与えられなかったことについて、イランが米国をICJに提訴し、ICJ先決的抗弁判決が示された(イラン資産事件)。このICJ判決に至る経緯と、ICJ判決の分析を行った。 第三に、衆目を集めている日韓請求権協定をめぐる紛争にも着目した。現時点では韓国において主権免除と直接に関係する訴訟が提起されているわけではないが、日本企業が有する財産に対する強制執行手続が具体的に進みつつあり、人権侵害救済請求における強制執行の問題に関わっていること、また、韓国において日本政府を相手とする訴訟も検討されていることから、主権免除の存立基盤を検討するのに適しているからである。 こうした検討から、強制執行の基礎となる判決も強制執行対象財産も多様化してきており、従来の存立基盤からの変容を明らかにするとともに、日韓請求権協定をめぐる紛争についても一定の示唆を得ることができた。 もっとも、イラン資産事件や日韓請求権協定紛争は現在進行形であり、全容を明らかにしたわけではないが、一定の方向性をえることはできた。
|