研究課題/領域番号 |
16K03335
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
長谷河 亜希子 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (00431429)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | フランチャイズ / 優越的地位の濫用 / 非良心的行為 / 約款 / 不公正条項 / 独占禁止法 / 競争法 |
研究実績の概要 |
本年度は、オーストラリア(豪州)の不公正約款規制について検討をした。豪州は、2010年に不公正約款を規制する約款規制を豪州消費者法に新しく設けた。当初、対象は消費者契約のみだったが、2016年、規制対象を一部の事業者間の約款契約(契約当事者の一方の従業員が20人未満=small businessの場合。以下SB)にまで拡大した。改正議論では、1】SBを不公正取引から保護することの重要性、約款契約における消費者とSBとの類似点(専門性や交渉力に欠けること、同業種では同様の契約が用いられていること、基本的に契約を受け入れるか否かの選択肢しかないことなど)、2】非良心的行為規制(日本の優越的地位の濫用規制に該当)の機能不全ゆえに包括的な不公正行為規制が重要であること等について議論がされていた。このように、非良心的行為規制の不足を補うことが意図されており、フランチャイズ(FC)契約にも大きな影響がある。 規制当局である豪州競争消費者委員会は、2016年11月の改正法施行に先立ち、FC契約を含む46の事業者間約款を分析した上で問題点を指摘し、契約の修正を要望した。FCでは、①一方的改訂条項(本部が無制限かつ一方的に契約等を改訂できる規定の有無)、②損害賠償の予定(純粋損害を反映した額か否か)、③契約終了後の競業避止義務(正当な利益を保護する範囲内か)、④解約に関する条項(不合理な解約権限を本部に与えていないか)等の問題点が指摘されている。 一般的にFC契約は約款契約であるとされ、その契約はFC本部が作成する。加えて長期の不完備契約であることから、本部は大きな裁量を有する。となると、本部がどのように権利を行使して加盟者に如何なる負担を課すのか不明確で、加盟者のリスクと不確実性は増す一方である。このようなFC契約の規制に、約款規制が大いに役立つだろうとの期待が寄せられるのはもっともだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の非良心的行為規制に加え、本年度は、不公正約款規制について検討を行うことができた。したがって、FC規制の両輪(非良心的行為規制と不公正約款規制)について全体像の検討を行ったことになる。これにより、豪州のFC規制の全体像、中でも、競争当局による公的執行の全体像がほぼ明らかになってきたと思われる。その過程において、優越的な地位の濫用行為に対する規制(豪州では非良心的行為の規制)のいかなる欠陥を約款規制が補っているのかという観点からの分析を加えるなどすることで、優越的地位の濫用規制の限界もあぶりだすことができた。したがって、おおよそ順調な進歩状況にあるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今日、優越的地位の濫用に関連する諸問題の中で、耳目を集めているのが、雇用関係にない被用者類似の働き手に対する、優越的地位の濫用である。事業者に位置付けられているFC加盟者の中にも、同様の立場の者が存在する。例えば、清掃業FCの加盟者は被用者に極めて近い働き方をしている(させられている)という問題は、世界中で指摘されているところである。コンビニの加盟者の中にも、毎日12~13時間労働をし、にもかかわらず1年間の利益は400万円台というオーナーが多数存在する。これら労働者類似の事業者たちは、集団交渉や、集団訴訟、場合によっては労組を結成して交渉を申し込む等の手段によって、相手方(FC本部、仕事の仲介業者、委託者など)による優越的地位の濫用に該当しうる行為に対処しようとすることがある。その際には、当該行為の優越的地位の濫用行為該当性とともに、集団交渉・訴訟という手段に出た者たち(労基法上の労働者とはいいがたいが、労組法上の労働者には該当する可能性がある者たち)に対する独禁法の適用除外という問題も発生する。 そもそも、FC本部・仕事の仲介業者・委託者などの、当初の勧誘方法が欺瞞的ではかったのか(利益予測や契約内容の情報開示が十分かつ正確だったのか)に加えて、仮に欺瞞的な勧誘方法が行われている場合、その行為をどのように規制しうるかという点と併せて、上記の問題について検討を行いたい。
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