最も大きな研究成果は、伝統ある査読付き学術雑誌であるAntitrust Bulletinに掲載された“The Exploitative Abuse Prohibition: Activated by Modern Issues”である。この論文では、搾取型濫用規制を行わないとしてきた米国の考え方と、限定的にではあるが搾取型濫用規制を行うことがあるとし実際に少しずつ規制事例を積み上げてきたEUの考え方を対比し、さらに米国に新たな潮流があることを確認したうえで、優越的地位濫用規制と呼ばれる搾取型濫用規制の経験を蓄積してきた日本の状況をそれに照合し、その特徴を明らかにする、という手法をとった。この論文を刊行した時期においては、いまだ日本では、間接的競争阻害規制説を標榜しつつ実際には中小企業保護の色彩が濃い優越的地位濫用規制が行われていただけであったが、上記の研究成果では、日本法の条文としてもそのような制約はないはずであり、非事業者(消費者などの個人)に対する優越的地位濫用というものも規制し得るはずであること、プラットフォームによる優越的地位濫用という大きな問題領域があること、などを指摘していた。日本において、デジタルプラットフォームによる個人情報等をめぐる優越的地位濫用が問題とされガイドラインが議論の的となったり、企業による人材に対する優越的地位濫用が話題となったりしたことに先駆けて、上記のような研究成果を世界に向けて英語で査読付きにより発信できたことは、この調査研究に対する補助に負うところが大きい。 当初の予定から1年延長した結果としての最終年度には、複数の外国人専門家との意見交換により成果をさらに改善し、その一環を、令和元年7月の法と経済学会において、“The JFTC Decision in Qualcomm”と題する英語の学会報告とすることができた。
|