研究課題/領域番号 |
16K03337
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
相澤 美智子 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (50334264)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 労働法 / 雇用差別 / ジェンダー / 人間の尊厳 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、男女雇用機会均等法の第4ステージを構想する本研究の労働法学全体における位置づけに関して考察を深めつつ、本研究の意義をより明確にしえたことが何よりの実績ないし成果であった。このことをいま少し具体的に記述すると、次のようになる。 第1に、「人間の尊厳」という理念の労働法学における意義については、長らく日本の労働法学界を牽引してきた大先輩である沼田稲次郎、西谷敏両氏が論じて以来、労働法学界において活発に議論がなされてこなかったが、労働法の根本ともいうべきこの問題について、「人間の尊厳――労働法学からの考察――」という論文にまとめ、研究代表者自身が既に発表していた「『人間の尊厳』と労働法」(法学セミナー748号、35-41頁、2017年)の内容を深化・発展させることができた。 第2に、男女雇用機会均等法の第4ステージを構想・展望するにあたり、現行の男女雇用平等法の問題点を明らかにすることは不可欠であるが、「雇用平等法の課題」と題する論文において、現行の男女雇用平等法の問題点を明らかにし、それに対する解釈論的、立法論的提言を行った。なお、この論文の内容は、日本と韓国の労働法学者で構成される日韓労働法フォーラムという学会において、日本法に詳しくない韓国の研究者にもわかりやすいよう若干の補正をして、報告した。 第3に、本研究の内容は、最終的には単著としてまとめたいと考えているが、その単著の構成(目次)が本研究を進めるにしたがって具体化し、幾度かの修正を経て、相当しっかりと固まり、その目次に沿って、最終的成果物につながる単著の執筆を3分の1程度行えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1の理由は、「人間の尊厳――労働法学からの考察――」という論文において、「人間の尊厳」という国連憲章等の国際文書に由来する概念が、日本国憲法上はどう位置付けられているのか、すなわち、第2次世界大戦後の国際文書と日本国憲法の対応関係を明らかにしつつ、労働法学が「人間の尊厳」を日本法の中に正しく位置づけていくことの意義と必要性を強調し、人間の基本的欲求に関する心理学における有名な先行研究をも活用するなどして、前著である「『人間の尊厳』と労働法」の内容を深化・発展させられたからである。ちなみに、「人間の尊厳――労働法学からの考察――」は、2018年5月初旬に日本評論社からセットで出版される2冊の論文集『法と国制の比較史』『市民社会と市民法』の後者の最後に収録されることになっている。2冊は、前編・後編のように外形的には2冊で1セットとなっていないが、事実上はそうであり、編者は、研究代表者の論文を2冊を締めくくるに相応しい、価値ある論文と評してくれた。 第2に、雇用差別における性差別を是正するために存在する男女雇用機会均等法の現状を踏まえ、解釈論および立法論上の課題を明らかにしたことである。韓国における学会でこの研究報告を行ったところ、韓国の労働法研究者および労働弁護士の関心も高く、質問が多数寄せられた。 第3に、本研究の最終的成果物にしたいと考えている単著の構想が具体化し、研究の進展に伴って単著の目次に修正を施していった結果、研究代表者自身の労働法全体の把握の仕方を示しつつ、本研究を発表できるような、非常に良い構想・目次になったことである。その目次にしたがい、単著の3分の1程度に相当する部分の執筆をすることができた。加えて、今後執筆しなければならないこと、そのために実施しなければならない研究・調査は何かを明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終的成果物にしたいと考えている単著の構想・目次が出来上がったので、それにしたがって執筆を進めていきたい。今後とくに推進したいことは、次の2つである。 第1に、男女雇用機会均等法は現在のところ、正社員(の主として女性)に対して行われる性差別を排除・是正していくための法となっているが、女性労働者の半数以上は非正規労働者であり、彼女らは非正規労働者であるがゆえに均等法の保護の対象とされない。これは重大な問題であり、均等法の第4ステージは、この問題にメスを入れる必要があると考える。そのため、今後は判例分析などをとおして、非正規労働者が受けている差別の現状およびそれに対する法的対応の現状を明らかにし、そこから将来に向けての課題を探求していきたい。 第2に、雇用差別を排除する法が、差別を温存しようとする社会において、どのような抵抗に遭う可能性があるのかを予測し、それへの対応も考えて、法解釈・法改正をしていくことが重要になると思われる。そのような問題への考察を深めるために、外国における法制定・法改正の経験から学べることも多いと考える。研究代表者はこれまで日本の雇用差別禁止法のあり方を考えるにあたり、アメリカの雇用差別禁止法のあり方を参考にしてきており、上述の問題を考えるうえでも、いま一度、アメリカ法とアメリカ社会の経験から学びたいと考える。平成30年度は本研究年の最終年度であるので、平成30年の8月にはアメリカに出張し、公民権博物館などを見学し、法と社会との関係に関する資料を丹念に分析・検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、平成29年度に予定していたイギリス出張を、前年度に行うことができたため、残額が生じた。当該残額と平成30年度助成金を合わせて、研究遂行上、新たに必要となったアメリカ出張に使用する予定である。
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