最終年度の成果としては、夏のアメリカ出張および富山出張を通して、雇用差別を禁止することの意義が、人間の「幸福追求」および「尊厳」の保障にあることを博物館における資料や映像を通して、また雇用差別訴訟の原告の生の声を通して確信しえたことである。「幸福追求」も「尊厳」も日本国憲法の基本理念であり、夏に得た確信によって、均等法の第4ステージのあり方を構想するという本研究の目的は、次のような答えに達し得た。すなわち、今後の均等法は、一般法(民法)・特別法(均等法)体系と決別し、憲法・労働法(均等法)体系を意識したものでなければならないということである。 本研究の成果の概要は次の通りである。(1)「均等法の理念」は、同法の憲法的根拠が憲法13条、14条、25条、27条1項にあることから、広義には「幸福追求」であり、狭義には「人間の尊厳」であることを明らかにしたこと、(2)均等法における差別禁止規定は、現行法の形式を維持するのではなく、包括的差別禁止規定にすべきであり、それを通じて採用上の性差別、妊娠・出産を理由とする差別、セクハラ、あらゆる間接差別等を禁止していくことが可能となることを提起したこと、(3)差別の被害者からの均等法違反の申立によって行政機関が知り得た情報は、裁判上の証拠となるようにすべきことや、系統的な差別については行政機関が被害者個人に代わって訴訟を提起できるようにすること等、行政と司法の連携を緊密にすることによって均等法の実効性を高めていくことを提唱したこと、(4)均等法違反の救済が民法によって与えられるという一般法・特別法体系と決別し、均等法違反に対しては、裁判官が憲法14条を念頭に置きつつ、正義と衡平の観点から、採用、昇進、バックペイなど差別の是正に適切と考える救済を命じうることを均等法に明記すべきであることを論じたこと、である。
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