研究課題/領域番号 |
16K03347
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
丸谷 浩介 九州大学, 法学研究院, 教授 (10310020)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 費用返還 / 費用徴収 / 生活保護法 |
研究実績の概要 |
本研究は、多様な社会保障法の法主体が作出する、社会保障の過誤給付について、制度横断的にその原因を探り、適切な解決方法について検討を加えるものである。本年度においては、特に生活保護法領域と遺族年金の領域における過誤給付のあり方に関しての検討を進めた。 生活保護法領域における過誤給付は、被保護者の故意によらない費用返還と、故意による費用徴収がその代表例であるが、近年では行政機関の過誤によるものも増えている。この事態を踏まえ、被保護者に帰責性のない過誤給付に関する費用返還につき、居住用不動産買換え事件を例に検討を加えることができた。 もっとも、これら日本法に関する問題の整理は、法実体面での研究を欠くことができない。このため本年度は、特に生活保護法に関する膨大な行政規則の整理に注力し、それらが発出された時代状況や背景、法体系からみた内容の妥当性、法規と規則間での齟齬ないし一貫性を検討することになった。これら作業は困難を極め、かなりの時間を要した。 他方、元来性に中立的でない法制度としての遺族年金制度は、近年性中立的な制度設計が叫ばれている。イギリスの遺族年金制度は性中立的な制度設計を志向しているが、現実社会と法制度との間にズレが見られ、それを反映した行政上のミスもある。本年度はこの点に関しての研究を進めることができた。そもそも公的年金制度ないし私的年金制度は他の法領域と密接な関係を持つだけでなく、制度そのものが複雑であって、申請者・受給者はもとより、行政機関や社会保険に携わる者でも制度の正確な理解をもって事務処理することが非常に困難である。イギリスの法改正はこの点を緩和する効果を持つことから、日本法への示唆を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画として、日本法においては過誤給付の統制方法についての研究と、裁判例の分析を進めることにしていた。これらについてはおよそ研究計画通りに進めることができた。 イギリス法においてはタックスクレジットとユニバーサル・クレジットの過誤給付調整について、その構造と裁判例の検討を進めつつ、現地調査を行うことにしていた。問題構造の把握を進めることはできたが、裁判例の分析と現地調査までは進展することができなかった。 もっとも、イギリス法に関しては30年度にも継続して行うこととしており、本年度の全体的にはおおむね順調に進展しているものといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間の折り返しにあたる30年度については、いったん日本法の整理を行い、論文として公表することを予定している。その知見を元に、イギリス法の分析視角を得て法の構造を再確認するとともに、法実体面での研究を進めることとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
パソコン更新と英国現地調査を延期したため、次年度使用額が生じることになった。次年度は研究計画を再構成し、計画的に執行する。
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