研究課題/領域番号 |
16K03347
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
丸谷 浩介 九州大学, 法学研究院, 教授 (10310020)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生活保護法63条 / 費用返還 / 過誤給付 |
研究実績の概要 |
法人の代表者の被保険者資格に関する健康保険法の過誤給付につき,療養給付不支給決定取消請求控訴事件東京高判平28 ・5・25について熊本社会保障法判例研究会にて報告した。 生活保護法63条に定める費用返還について,その基礎控除と実費控除の関係に着目して社会法判例研究会にて報告の上,『法政研究』に執筆した。父子家庭の遺族年金不支給処分に関して,社会法判例研究会での報告を経て,「賃金と社会保障」に掲載した。労働と社会保障法との関係において生じる過誤問題を,特に老齢年金の支給開始年齢と第3号被保険者問題に関する論点につき,日本社会保障法学会で報告するとともに,その成果を日本社会保障法学会誌に掲載した。これをより論点化したものを老齢年金の支給開始年齢に関する過誤について,「週刊社会保障」に掲載した。また,社会保障審議会などで議論されている支給開始年齢の考え方について,論考を執筆した。第3号被保険者制度が受給者にとって過誤を発生させていることについては,福岡社会保険労務士会の会報に執筆し,その問題構造と実務的な論点について社会保険労務士に向けた問題整理をした。 イギリスの公的扶助給付に関する過誤給付についての現地調査を行い,資料収集と論点整理を行った。この結果,イギリスではこの問題が大きな社会問題となっており,国民的関心が高いこと,イギリス法と日本法では公的扶助法のあり方が相当異なるため,問題状況が異なること,問題の解決方法がかなり異なること,制定法とコモンローの役割分担が論点化していることがわかった。これらの調査結果を踏まえ,日本法の問題状況とイギリス法のそれを参照しつつ,フランスでの問題状況について現地調査を行うことができた。イギリス法の整理については来年度も継続して取り組み,成果を公表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では(1)イギリスのタックスクレジットに関する過誤給付の構造を把握し,その調整方法とそれに対する法的解決の方法を研究する予定であった。(2)イギリスのユニバーサル・クレジットの過誤給付調整とその構造を検討し,オンライン手続における過誤給付防止と行政庁の過誤についての検討を行うことにしていた。また,これらに併行して日本法の状況を研究することにしていた。 日本法については各領域横断的に研究を進めることができた。イギリス法については全体構造の把握と論点整理をすることができ,順調に進んでいるものと思われる。 ただ,イギリス法についてはタックスクレジットにおける過誤給付の研究に着手することができなかった。これは主としてユニバーサル・クレジットの過誤給付調整についての構造把握に専念したからであり,それによってタックスクレジットにおける過誤給付の研究に視座を与えたことは有益であった。 また,社会保障行政法における過誤給付の統制方法については,司法作用(裁判例分析)に止まらざるを得ず,行政機関内部における対策状況については研究の方法論を得ることができず,情報収集とその類型化を進めることができなかった。ただ,これらに関しては判例分析において一定程度の見通しを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる本年度は,(1)イギリス法における立法政策と法解釈を整理し,イギリス流の法的意義を検討することと,(2)日本の社会保障法学における過誤給付の位置付けを再定位することによって,その解決方法に関する指導原理を導出し,適正な解決のための立法政策論を展開する予定にしている。 これには昨年度取り組んで積み残した課題を進めると同時に,これまでよりも広い視野で分析する必要がある。本年度は制度横断的に,国際比較を視野に入れた成果を出すことにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定されていた出版物の出版がされなかったため。 更新を予定していたコンピューター関係について,研究室移転等によりその時期を逸したため。 海外出張予定の時期を変更し,当初予定よりも短期間になったため。
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