平成31年度の研究実施計画として(1)イギリスにおける過誤給付の位置付けについて,その立法政策と法解釈を整理して法的意義を検討すること,(2)社会保障法学における過誤給付の位置付けを明らかにするために,過誤給付における裁判例の再検討と適正な利益配分のための調整について検討することにしていた。 (1)については丸谷浩介「イギリスにおける過支給の公的扶助給付の返還方法」法政研究(2019年)86巻3号149-176頁を公表し,ユニバーサルクレジットにおける過誤給付の立法政策と法的処理について検討を加えることができ,当初の目的を達成することができた。(2)については社会保障給付全般の問題として丸谷浩介『ライフステージと社会保障』(放送大学,2020年)としてまとめることができた。過誤給付に関してはいくつかの裁判例分析に着手し,そのうちいくつかを公表することができた。さらに丸谷浩介「厚生年金の被保険者資格」週刊社会保障(2019年)3040号48-53頁に公表したよう,過誤給付発生原因に遡って検討することができた。以上により,(2)についても31年度の目標を到達することができた。 研究期間全体としては,イギリス法の分析が少なかったこと,日本法に関してより幅広な領域を横断的に分析することができなかったため,明晰な分析を加えることができなかったことが反省点となった。しかしこれらは本研究計画において予想されていたことであり,研究遂行過程において生じた必要性である。これらの事情からすると,当初の研究計画における目的は一応達成することができたものと評価しうる。
|