研究課題/領域番号 |
16K03350
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研究機関 | 福岡県立大学 |
研究代表者 |
平部 康子 福岡県立大学, 人間社会学部, 准教授 (60316164)
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研究分担者 |
倉田 賀世 熊本大学, 法学部, 教授 (10431298)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会保障法制と子ども支援 / 子ども法制 / 子どもの権利・法益保護 / 間接的主体性保障 / 拠出要件、所得制限、就労要件 / 現物給付 |
研究実績の概要 |
本研究は、変容する社会経済や家族の中で、子どもの発達・自立という価値の重点化に対応して、いかに子どもを社会保障法制に位置づけ、法的対応を行うかを検討する。 本年度は、まず従来の法制度および学説の到達点を整理した。「子ども」という概念により、「児童」から射程を広げ、実体的な(主に就業による)自立可能性が考慮されるようになっている。同時に、子ども法制は隣接分野との関係性が増大し、体系が複雑化している。現行の法制においては、子どもの利益の強調が行われる個別法(児童福祉法、子どもの貧困対策法)がある一方で、親の子育ての権利として支援を位置付けている個別法(児童手当法、子ども・子育て支援法)とが併存し、理念に不安定性が見られる。 次に、錯綜した法制度を体系化するために、子どもの法主体性の可能性について検討した。本年度は、福祉サービスの供給過程において子どもの自己決定がどの程度・どのような方法で可能なのかを検討した。倉田(研究分担者)はドイツ法との比較を通じて、サービス支給決定手続において、受給権者(親)のみならず子どもも包含した当事者意思の反映や当事者意思の尊重の妥当性につき、司法の判断を仰ぐ仕組み(間接的主体性保障)を検討し、子どもの自己決定権と保護との調和の可能性を示した。 さらに、従来の社会保障給付の受給権者・要件といった形式が、子どもに給付が届かない阻害要因になっていないかを検討した。平部(研究代表者)は、イギリス法では、低所得世帯を基礎にし、主に親等を名宛人にする給付の体系と、子ども自身を基礎にした給付の体系の2つがあることを示した。後者の体系では、現物給付という方法を通じて子どもが受給者となりうること、給付の名宛人が比較的容易に変更しることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は2回の研究会を行った。その成果の一部を、平成28年5月28日には日本社会保障法学会第69回大会のシンポジウム「子ども支援のあり方と社会保障法」で発表した。この内容については、以下の通り、平成29年5月刊行の『子ども支援/遺族年金/引退と所得保障 社会保障法第32号』(社会保障法学会編)に公表した。 研究代表者・平部康子「子どもに対する給付の形式」(68-84頁)、研究分担者・倉田賀世「社会福祉サービス供給体制における子どもの法的主体性保障のあり方」(40-53頁)、連携研究者・福田素生「子育ち・子育ての経済的支援策の再検討」(54-67頁)。研究協力者・伊奈川秀和「社会保障法制における『子ども』のニーズの位置づけと変容」(11-24頁)、研究協力者・常森裕介「社会保障給付における教育支援と子どもの発達」(25-39頁) なお、予定していた調査については、調査対象との調整の結果、次年度の前半に実施することとした。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、子どもの法益主体性の拡大に対応する給付方法の法的検討を行う。研究計画段階では、児童虐待の場合は除外して検討することとしていたが、本年度の研究で虐待防止法と交錯する課題であることが明らかになった。給付決定について親の意思に反して公的介入が許される条件や範囲、子どもの意見表明や意思の尊重の範囲を検討する。ドイツの福祉サービスの受給決定に関しては本年度に公表を行っているため、平成29年度はイギリスについて調査を行う。新たな社会保障(関連)給付の社会保障法学上の位置づけについて検討をするため、アメリカ以外の国の調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度中に資料収集や自治体の実施状況確認を目的とした海外現地調査(1名)を実施する予定であったが、調査対象との調整の結果、平成29年度前半で実施することとなった。このため、平成29年度は2名の海外現地調査を予定している。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に予定していたイギリスにおける海外現地調査(1名)を平成29年8月ー9月に実施する。 このため、旅費として45万円を予定している。 これとは別に、平成29年度は予定していた海外現地調査(1名)を2-3月に実施する。
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