研究実績の概要 |
2017年5月にドイツで開催された日独労働法協会のシンポジウムにおいて、日本法における労働者概念の判例・労働委員会の命令について、報告を行った。報告の内容は、筆者がこれまで日本語で執筆した原稿がもとになっており、とくに新しい知見を示したものではないが、今後デジタル化が進む中で、従来の労働法のあり方が見直される必要があるのではないかというテーマで開かれたシンポジウムであり、労働法の基本的な概念である労働者概念について、日本法とドイツ法の相違について報告でき、ドイツ人参加者の意見を聞くことができたことは非常に有意義であった。 また、EU法の判例研究として、社会保障ツーリズムに関するDano事件(Case C-333/13, ECLI:EU:C:2014:2358)について、検討を行った。従来は、労働者自由移動原則(現EU運営条約45条)に基づき、またマーストリヒト条約以降は、EU市民の権利(現EU運営条約20条)として、EU市民には、移住先の最低生活給付に対する権利が認められてきたが、同事件先決裁定によって、自由移動指令2004/38号(OJ 2004 L158/77)に基づく受給権の要件に即して、非就労者に対する最低生活保障給付の受給の可否が厳格に判断されるようになった。この傾向は、続くAlimanovic事件先決裁定(Case C-67/14, ECLI:EU:C:2015:597)においても確認されている。従来は考慮される余地のあった個別の事案の事情を考慮することはなく、労働者性が肯定されなければ生活最低給付の受給権は認められないという判断は、従来の判例の方針を修正するものであるといえる。
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