研究実績の概要 |
2018年度は、EU法およびドイツ法上の労働者概念に関する最近の動向について検討し、論文にまとめることができた。 EUでは、従来は、労働者自由移動原則(EU運営条約45条)に基づき、生活最低保障給付の受給権を争う事案が多く、その先例であるローリーブルーム事件(Case 66/85, Lawrie-Blum, ECLI:EU:C:1986:284)において、「一定期間、他者のために、その指揮命令に服して給付を行い、反対給付として報酬が支払われる者」という労働者の定義が示され、その後の欧州司法裁判所の先決裁定においてもこの定義が用いられるようになった。1990年代後半以降、労働法分野で多くの指令が制定されたことを受け、近年、これらの指令の適用対象者である労働者か否かが争われる先決裁定が次々と出されるようになった。 公表した論文では、1.EU法には、各国法の労働者概念に委ねるのではなく、EUで統一的に労働者性の有無を解釈するという意味における「EU法独自の労働者概念」と各国法の定義に委ねられている労働者概念の2種類があるが、後者の、明示的に各国法の労働者概念を援用する指令についても、欧州司法裁判所は、EU法の実効性の原則に基づき、EU法で統一的に解するべきであるという判断を下す傾向にあること、2.EU法上の労働者概念は、問題となった規範に応じて異なる相対的な概念であることを欧州司法裁判所は明示的に判断しているにも関わらず、上記のローリー・ブルーム事件で示された定義がいずれの先決裁定でも用いられ、相対的ではなく、統一性を志向していること、そして、3.欧州司法裁判所は労働者性を広く認める傾向を示していることを明らかにした。そして、欧州司法裁判所の判断は、労働者性を狭く解しているドイツ法にも少しずつ影響を及ぼしていることを指摘した。
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