研究実績の概要 |
2019年度は、労働者概念とEU労働法の最近の展開について、研究を進めた。 労働者概念については、日本では、労働基準法等の個別的労働法上の労働者概念と労組法の集団的労働法上の労働者概念は相対的であると考えられているが、両概念は、いずれも指揮命令拘束性(業務遂行における指揮監督の有無、時間的・場所的拘束性)を重視している点で、判断要素が異なるとはいえないこと、しかし、かかる指揮命令拘束性の充足の判断において、個別的労働法では、判断が厳格に行われる傾向にあるが、集団的労働法では、判断は比較的緩やかであることを確認した。判断要素と判断方法という区分は、伝統的な法的三段論法における、規範とあてはめの区分に相当するものである。 以上のように問題状況を整理したうえで、判断要素は異ならないが、判断方法が異なるということを理論的に正当化することは困難であり、例外はあるものの、原則として、判断方法(あてはめ)も個別的労働法と集団的労働法において同一でなければならないという試論に達した。かかる試論については、2019年11月の日本労働弁護団の総会で報告を行うとともに、いただいた意見を踏まえて、さらに検討を深めるべき点について、引き続き、考察を深める予定である。 EU労働法の展開については、近年、EU司法裁判所の判断が相次いでいる信教差別について、検討を行った。ドイツにおいて、教会が運営している医療教育施設の労働者に対して、信者である労働者には教会の教義を遵守する義務を課すのに対して、信者でない労働者に対しては、かかる義務付けを行わないことが、信教差別に当たるかが争われたEU司法裁判所の先決裁定(Case C-68/17, IR, ECLI:EU:C:2018:696)に関する検討を論文にまとめた。
|