最終年度である令和2年度は、これまでの労働者概念の研究をまとめる作業に従事し、『労働者の基本概念―労働者性の判断要素と判断方法―』(弘文堂、2021年)という単著を出版することができた。本書では、まず、労働者性に関する裁判例をできる限り網羅的に検討し、裁判所の解釈の特徴と問題点を明らかにした後で、ドイツ法とEU法における労働者概念に関する判例と学説を検討し、労働者性の判断をいかに行うべきかという試論を提示した。本書では、判断要素と判断方法という用語を用いて、労働者性の解釈のあり方を分析した点に特徴があり、かかる分析視角に基づいて、労働基準法上の労働者概念と労働組合法上の労働者概念の異同およびドイツ法における労働者と自営業者の中間概念である労働者類似の者の概念の是非について、検討を行った。労働者概念は、19世紀後半ないし20世紀初頭のの労働法生成時から議論されてきた問題であるが、最近では改めて、デジタル化による新しい就労についても、問題となっている。本書によって、新たな問題についても、対応し得る理論的枠組みを提示しようと試みた。 また、秋の労働法学会のワークショップにおいて、2018年の働き方改革の一環として導入された労働者派遣における同一労働同一賃金原則の施行状況について、関係者にヒアリングを行い、ドイツ法における同様の規制との比較検討を行った。かかるワークショップでの報告の成果は、「労働者派遣における同一労働同一賃金原則―とくに労使協定方式(派遣法30条の4)に関するドイツ法との比較―」(季刊労働法272号100-111頁、2021年)として公表することができた。新しい制度について、最新の実務の動向を調査し、その問題点を指摘することができた。
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