研究課題/領域番号 |
16K03367
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
池田 公博 神戸大学, 法学研究科, 教授 (70302643)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 刑事訴訟法 / 捜査法 / 電磁的記録 / データ分析 / GPS捜査 |
研究実績の概要 |
平成29年度においては,捜査対象者の承諾を得ることなく,その使用する車両にいわゆるGPS端末をひそかに取り付けて,当該車両の位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査手法(いわゆるGPS捜査)について,現行法の下での位置付け,とりわけその実施可能性に関して示された最高裁大法廷判決の内容について,検討を加える機会を得た。上記手法によって得られる位置情報は,その一つ一つは断片的なものである一方,集積することによって捜査対象者の日常的な行動のあり方を相当程度描き出すものであり,結果として捜査対象者の人物像の把握をも可能にするとして,従前は,その点にその侵害性を見出す見解も有力であった。しかし本判決は,GPS捜査は強制処分に当たり特別の根拠規定に基づいて行われる必要があるとする一方,そのような評価を導く根拠として,合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入するものである点において,個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害することを挙げ,その侵害性を,情報の蓄積,及びその分析の可能性を生じさせることにではなく,情報の取得自体によって生じるものと把握するものと読み取れる判断を示した。検討においては,とりわけGPS捜査によって得られる情報の性質が,特定の車両の位置であるという意味において,任意捜査として実施することができる尾行によって得られるものと大差がないにも関わらず,尾行とは異なる法的規律の下に置かれるべきであるとされたことの理由づけについて,憲法論も参照しつつ検討を加え,GPS捜査では,尾行と異なり,位置情報を把握するまで端末の所在がわからないために,立ち入りの許されない場所で処分を違法な処分を実施してしまう可能性を排除できない点に,適法な領域の範囲で処分を思いとどまる可能性の残る尾行との間に質的な差異を見出しうるとする評価を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実務的のみならず理論的にも重要な検討対象であるGPS捜査に関する最高裁大法廷判決について,前年度までの研究を踏まえつつ,研究計画にしたがい,隣接分野である憲法学の知見も参照しながら,その意義を検討し,その成果を公表する機会を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討の成果を踏まえながら,いわゆる強制処分法定主義の意義について,証拠収集・保全手法の規律の側面,および収集・保全された証拠の利活用の側面のそれぞれとの関係で,いかなる規律を要請するものであるかを明らかにするべく,総括的検討に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)残金額によらずに,年度内に必要かつ入手可能な書籍・物品等の購入及び出張等を実施することができたため。 (使用計画)新年度において新たに交付される助成金と併せて,研究計画にしたがい必要となる支出を行う予定である。
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