研究課題/領域番号 |
16K03367
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
池田 公博 京都大学, 法学研究科, 教授 (70302643)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 刑事訴訟法 / 捜査法 / 個人情報 / 強制処分 |
研究実績の概要 |
平成30年度においては、刑事訴訟法に明文の根拠規定を必要とする「強制の処分」(強制処分)の意義にかかる検討を行い、日本刑法学会第96回大会でその内容を報告した。また、現実の捜査の過程で用いられた手法が強制処分に当たるかの判断において、判例・学説を通じて考慮されてきた「被処分者の意思」の位置付け、とりわけその「制圧」を伴うことの持つ意味についての検討を公表した。以上によれば、強制処分とは被処分者の重要な法的利益を実質的に制約するものであり、そうであるがゆえにその実施には法律上の根拠が必要とされることになるものである一方、特定の捜査手法の実施が被処分者の意思に基づいて受容される場合には、当該手法を強制的に実施されたものとはいえない。言い換えれば、処分が被処分者の意思を「制圧」して行われる処分が「強制」的なものとされるのは、それが被処分者の意思に基づいて受容されたとみる余地がないためであるといえる。このような意味で理解される「意思の制圧」は、捜査機関が被処分者に対面して処分を実施する際にその有無が問われる一方、秘密裏に(密行的に)実施される処分は、被処分者が処分の存在を知り得ずその意思に基づき処分の実施を受容する余地もない以上、常にそれを伴うことになる。以上より、「意思の制圧」の有無が、具体的な処分についてその実施態様に左右されることなく強制処分性を判断することを可能にするという意味で、汎用的な指標(の一つ)といえることを示した。 加えて、捜査機関が、信仰に関する個人情報を収集し、また保管、利用することの憲法および刑事訴訟法上の問題について検討した。捜査機関による情報の収集は、事後の突合・分析を視野に行われるものであるから、事後的な利用が行われることから直ちに収集自体が許されないとする議論は当を得るものではなく、利用の統制はそれ自体として検討される必要があるとの考えを述べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
刑事訴訟法学上、また刑事手続実務上の重要な概念である強制処分概念について、体系的な検討に基づき、概念のさらなる明確化を図ったほか、捜査機関による個人情報の取得・保管・利用に妥当すべき法的規律のあり方について、前年度までの研究を踏まえつつ,研究計画にしたがい,隣接分野である憲法学の知見も参照しながら,その意義を検討し,その成果を公表する機会を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
刑事手続におけるデータの利活用に及ぼすべき法的統制のあり方について,証拠収集・保全手法の規律の側面,および収集・保全されたデータの証拠等としての利活用の側面のそれぞれとの関係での総括的検討を行い、その成果を公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)残金額によらずに,年度内に必要かつ入手可能な書籍・物品等の購入及び出張等を実施することができたため。 (使用計画)新年度において新たに交付される助成金と併せて,研究計画にしたがい必要となる支出を行う予定である。
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