平成31年度においては,刑事訴訟法に明文の根拠規定がなければその実施が正当化されない「強制の処分」(強制処分)の意義に関して第96回日本刑法学会大会(平成30年5月・関西大学)で行った,共同研究報告の内容を公刊する機会を得た。本研究課題との関連では,証拠物等の取得にかかる規律のみならず,取得後の証拠物の利用のあり方についても,取得とは区別された根拠規定がなければこれを行うことができないものと解すべきかについて,個人情報保護法分野の知見も参照しつつ検討した内容を含むものとなっている。具体的には,個人情報保護の要請は,現時点では法律上もなお,刑事手続における取得情報の利用との関係で貫徹されているものではなく,その意味で情報の利用に明文の規定による制約は置かれておらず,また,今後の個人情報保護の利益についての憲法・刑事訴訟法分野の理解の進展により,情報利用を規律する法規定が求められることがあるとしても,適切な法整備を行うための一定の時間的猶予は設けられるべきであり,またその間も,取得情報の利用にかかる法的規律が存在しないことを理由に,情報の取得そのものが禁じられるべきものではないとした。 現段階での検討の成果としては,情報の取得と利用は,それぞれに適正な規律が妥当すべきであるとしても,利用について特段の規制が存在しないことが,直ちに取得の規制(禁止)に連動するものではないという理解に立つのが適切であり,利用の規制が設けられるべきであるとすれば,そうしなければ取得自体が禁じられるという議論によってその動機付けを図るよりも,そうした規律自体の理論面,政策面からの必要性および妥当性を正面から論じるべきものと考えている。
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