研究課題/領域番号 |
16K03368
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野澤 充 九州大学, 法学研究院, 准教授 (70386811)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 業務妨害罪 / 公共の平穏 / 社会法益 / 刑事法制史 |
研究実績の概要 |
本研究はドイツやオーストリアに見られる「社会の平穏を害する罪」を現代社会にふさわしい形で再構成し、日本での新たな立法提言の足掛かりとするものであり、そのアプローチは①歴史研究を前提とした比較法研究を行うこと、および②日本における当該加害行為に関する現状の問題分析という2つの側面から構成されている。 平成28年度は、研究実施計画の上では①歴史研究を前提とした比較法研究については、ドイツの「公共の秩序に対する犯罪行為」の章におけるいくつかの犯罪類型に関する立法資料を収集することを予定していた。これについては関連するドイツ文献の購入を進めることはできたものの、ドイツに渡航する時間がどうしても確保できず、現地での資料収集の必要が課題として残った。他方で、ドイツの刑事法制史に関する文献の研究会を頻繁に開催し、近代刑事法制史の全体の流れを明らかにすることを進めている。その中では、ドイツ刑法典の各則の中でも「公共の秩序に対する犯罪行為」の章が異質なものであることが明らかになりつつある。 また②日本における当該加害行為に関する現状の問題分析に関しては、首相官邸にドローンを落下させた事例に対して業務妨害罪を認めた事例(東京地裁平成28年2月16日判決)など、「業務妨害罪」を「社会の平穏への攻撃行為」に対して代替的に運用する(本研究の観点からは問題のある)事例が現れており、既発表論文「虚偽犯罪予告行為と業務妨害罪」(浅田和茂ほか編『自由と安全の刑事法学 生田勝義先生古稀祝賀論文集』(2014年))以後の状況についての判例・学説状況を検討している段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、①歴史研究を前提とした比較法研究の側面に関しては、当初から資料収集に徹する予定であったので、その限りで計画上の遅れはない。ただしドイツでの現地資料収集ができなかった点は、時間的都合がつかなかったという事情もあるものの、次年度に向けての課題となった。また②日本における当該加害行為に関する現状の問題分析の側面に関しては、とりわけ業務妨害罪に関する最近の判例動向について確認し、またこのような最近の「社会の平穏への攻撃行為」に対する業務妨害罪の運用についての論考もいくつか参照出来てはいるが、論文の形にまとめるまでには至らなかった。この点で計画にやや遅れがあることになり、次年度に具体的業績としてまとめる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた計画に比べて、やや進捗状況に関して若干の遅れが見られることから、まず①歴史研究を前提とした比較法研究の側面に関しては、比較対象のドイツ刑法典の規定が、そもそも犯罪類型としてあまり日本になじみのないものであるため、現在の処罰規定の内容そのものをまず明らかにすることの方が優先されるべきではないかと考えている。そして②日本における当該加害行為に関する現状の問題分析の側面に関しては、最近の「業務妨害罪」の判例状況の把握を進めつつ、「業務妨害罪」規定自体のそもそもの立法趣旨に関する論考の準備も進める必要があると考えている。
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