本研究はドイツ等に見られる「社会の平穏を害する罪」を現代社会にふさわしい形で再構成し、日本での新たな立法提言の足掛かりとするものであり、①歴史研究を前提とした比較法研究を行うこと、および②日本における当該加害行為に関する現状の問題分析という2つの側面から構成されている。 令和元年度は、とりわけ①歴史研究を前提とした比較法研究に関連して、本研究をさらに発展させるために、科学研究費国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)から研究助成を受け(「「公共の秩序に対する犯罪行為」の比較法的検討」(課題番号17KK0051))、これに基づいて平成31年4月から令和2年3月まで、ドイツ・エアランゲン=ニュルンベルク大学のクリスチャン・イェーガー教授の下で在外研究を行い、ドイツ刑法典各則第7章の「公共の秩序に対する犯罪行為」の犯罪類型について、その規定の意義を総合的に分析・検討した。その際に、当該各則第7章がかなり雑多な犯罪類型で構成されていることが分かり、「そもそもなぜこの各則第7章がこのような多様な犯罪類型で構成されることになったのか」を明らかにすべく、歴史的・法制史的観点からドイツ刑法典の成立過程を追うことを中心に進めた。この結果ドイツ刑法典各則が国家法益に対する罪(第1章から第7章まで)と、それ以降の犯罪類型とで異なる編纂過程を辿ったことが明らかになった。 研究全体としては、平成30年度までの②日本における当該加害行為に関する現状の問題分析に基づき、業務妨害罪の処罰規定を「単純な公共の平穏を害する行為」に適用することは、「営業の自由」の保護規定である業務妨害罪の運用として問題があり、そして①歴史研究を前提とした比較法研究から、当該行為を処罰する刑事立法の際のあるべき具体的要件について参考とすべき点が明らかとなった。今後はこれをまとめて論考として公表していくことになる。
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