研究課題/領域番号 |
16K03370
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
金澤 真理 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 教授 (10302283)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 当罰性 / 要罰性 / 再社会化 |
研究実績の概要 |
本研究課題に関して、平成28年度は、当初の計画に従い、刑の免除の判断基準を考量する資料として、適用実態を調査すると共に、刑の免除を法理論的に解析し、免除を基礎づける一般的要素、個別的要素を分析する作業に着手した。 刑の免除の適用実態を裁判例から明らかにすることには事例の少なさによる限界があり、量的分析が一定程度可能な領域について統計資料から実態を解析しようとする計画を当初たてていたが、注目すべき理由を挙げて刑の免除を適用した判例に接したことから、むしろこの判例をめぐる関連資料の収集、分析に主に力を入れるよう一部計画を変更して、理論的分析に傾注することとした。 また、刑の免除に関する規定の変遷に特徴がある、日本刑法の母法たるドイツ刑法を対象とした調査を行うため、ドイツのマックスプランク外国・国際刑法研究所において、資料収集を行った。同所には、ドイツ国内のみならず、ヨーロッパを始めアジア法に至るまで刑事立法、司法に関する文献が収蔵されており、この文献収集により、特に1909年ドイツ刑法予備草案が刑の免除を特に軽微な場合に限定していたにもかかわらず、1966年代案、続く69年の第一次刑法改正においてはこれが変更され、包括的な規定が完成するまでの経緯を明らかにし得る資料を入手した。さらに、この機会をとらえて現地の研究者と交流し、刑の免除をはじめ、近年特に議論がかまびすしい日独刑罰論をめぐる状況の変遷に関して意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、刑罰目的に合致し、個々の犯罪者に則した刑罰制度の構想という観点から、刑の免除について、比較法的手法により、その運用実態、運用基準等に関し、理論的実践的考察を行うことにより、刑の免除の刑事政策的意義、及び、刑の免除において必要な代替措置を含む実体法的な制度構築の方向づけを行うことを目的としている。このうち運用実態の調査については、特に日本において適用事例が少なく、またそれに応じた先行研究も十分なされてこない状況において、準備作業に多くの時間を割く必要があった。そこで、平成28年度は、統計的処理がある程度可能な一定の数値の蓄積がある自動車運転過失事例を素材として研究実施計画をたてていたところ、事故による(軽度)傷害を認めた上で、傷害の軽さや、被告が裁判への対応を長期間強いられたことを踏まえ、刑の免除を相当と判断した貴重な事例(横浜地判平成28・4・12判時2310号147頁)に接したため、関連資料の収集解析を行った。本事例は、被告人が普通乗用自動車を運転中、左折進行する際に被害者の運転する自転車を衝突させ転倒させて傷害を負わせたとして起訴されたものであるが、行為それ自体の当罰性、要罰性のみならず訴訟手続の進行過程での負担を考慮した点で実体法のみならず、手続法の観点からも刑の免除が考慮されていることを論じる素材となり得る点で注目すべきものである。自動車運転過失において、不起訴になったのではなく、刑の免除の判決が下された本事例を素材として、ある程度検討を進めることができた。当初計画した法曹実務家を対象とする聴取の実施には至らなかった点で計画どおり進捗しなかった面があるものの、理論的整備を進めることができたと言える。また、比較法的考察の基盤となる主要な立法史、理論史的研究の素材となる資料を現地で収集することができた点にも収穫があった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も、これまで行った比較法的研究の準備作業に基づき、日本の制度と諸外国、特に収集したドイツの立法史、理論史的研究の資料を読み解き、各制度の背景の相違にも配慮しつつ、日本と諸外国における刑の免除およびそれに類似する刑罰代替措置に関する調査、検討を進める予定である。今年度は実施できなかった法曹実務家に対する適用実態の聴取についても準備を進め順次実施したい。これらの調査分析結果については、中間とりまとめの形で所属する研究会等で報告して批判を仰いだうえで公表する予定である。 さらに、本研究課題の完成のためにはダイヴァージョン等の刑罰代替的な措置、制度との関連を探りながら刑罰そのものの意義を問い、その免除の可否基準を探ることが必要である。そこで、犯罪者の再社会化、社会復帰の観点からの刑罰付加のあり方に関する申請者の従来の研究結果および刑事司法と福祉とを架橋する途を模索するために諸外国において行われる司法・福祉連携モデルに関する比較法的研究(共同研究者として、他研究者に協力)によって得られた知見を踏まえ、各国で行われている刑罰代替措置、制度の内容、効果を検証し、犯罪論体系に整合的で実務の用に耐えうる刑の免除の判断基準を導出するための研究を引き続き進める予定である。
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