研究課題/領域番号 |
16K03378
|
研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
公文 孝佳 神奈川大学, 法学部, 教授 (30312333)
|
研究分担者 |
加藤 正明 神奈川大学, 法学部, 准教授 (00587438)
白取 祐司 神奈川大学, 法務研究科, 教授 (10171050)
安達 和志 神奈川大学, 法務研究科, 教授 (10409906)
幸田 雅治 神奈川大学, 法学部, 教授 (10635460)
三浦 大介 神奈川大学, 法学部, 教授 (30294820)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 違式かいい条例 / 警察官職務執行法 / 違警罪 / 行政警察作用 / 危険防止措置 |
研究実績の概要 |
明治期からの行政警察作用に関する布達をはじめとする行政文書の集積を行った。主として,旧東京府と神奈川県と旧大阪府に絞り込み当該作業を行った。対象は違式かいい条例と神奈川県違式かいい条例,大阪府違式かいい条例である。これらに関しては先行する「取締規則」がいくつか出されており,それらも収集対象としている。 取締規則から違式かいい条例までの流れを追うことで,近代西洋法を継受するまでのわが国の行政警察作用の一端が明らかになると考え,後者に関しては,フランス法継受後の違警罪成立までの諸改正を反映させた資料の作成を行っている。難航しているのが前者の取締規則の収集と整理であり,断片的にしか収集しえていない。 近代法継受後の行政警察に関しては,警察官職務執行法の制定過程の研究に着手した。旧行政執行法廃止後二か月後に施行された現行警察官職務執行法が,当初より立法の不備が指摘され,検察庁内部で将来の改正を見据えた上での検討がなされていたことを確認できた。周知のように,警察官職務執行法の改正は,所持品検査の導入に関するものが昭和20年代後半に議論されたのみである。しかしながら,検察庁内部での検討に関しては,資料の制約もあり,十分に行われていない。この点,通達等を丹念に検証することで,各時代における運用思想が明らかになるという確信を得ることができた。 平成28年度に関しては,以上の二点につき資料を可能な限り収集したものの,分析後のアウトプットを出すことができなかったので,29年度は資料の公刊をも含め,分析結果の公表も行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
違式かいい条例に関しては,旧東京府,大阪府、神奈川県のものを中心に収集と分析を進めているが,その前身である取締規則などには散逸しているものもあり,文書館などでの資料収集を進めている。それ以外では,取締規則から地方違式かいい条例の布達と施行,その後の改正を違警罪導入までフォローしえたものもあって,年度内での資料公刊を目指し,分類と整理を行なっている。 警察官職務執行法に関しては,従来あまり顧みられるところのなかった,「犯罪の制止」に関する立法状況の調査と,施行後の裁判例の収集,また当該条項に関してなされた通達等の収集を行っている。これら作業により,犯罪の予防と犯罪の捜査の一部を担う警職法の前者の側面が明らかになると考えている。この作業は比較法による検討の視座を提供するものである。 比較法研究としては,ドイツ警察法における一般条項に関する文献調査を開始した。ドイツ警察法では,権利制限に関してわが国より詳細な規定を置いている。そのうえでなお,一般条項を規定してカバーする手法をとっている。一般条項の適用対象を検証することで,「犯罪予防における行政警察作用」の一端を明らかにすることができると考えている。ドイツ警察法では従来,警察による危険防止処分に関しては数種類の基本処分(Standardmassnahme;場所からの退去処分,立ち入り調査,監置など)を置いているが,hauusliche Gewaltに対応するための立法である暴力保護法が成立したとき,新たに住居退去処分を設けた。その立法過程では,警察作用の根拠となる処分の新たな立法にあたっては「危険の内容をどう条文に反映させるか」,「既存の処分との差異をどのように位置づけるか」という二点が十分に議論されていることが判明した。この点は,適用例の裁判例の集積と分析を行うことで,わが国の今後の立法にも参照しうる情報となると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の二つの柱である,行政警察作用における立法史研究と比較法研究はそれぞれ継続する。前者に関しては,地方違式かいい条例とそれ以前の取締規則の収集と分析を行う。それに際しては,行政警察関連法規類に関する布達,司法省への伺書,その後の改正などを丹念にフォローし,違警罪成立までをフォローする。 後者に関しては,ドイツ法とフランス法における比較法的検討を行う。その際の視座は,制限対象たる権利のカテゴライズ化の背景にあるものを探る,というものである。制限対象たる権利ごとに処分の規程を立法化し,それに該当しないものについては一般条項の適用で対処するという志向(思考)は,比例原則の適用とともに,権利制限を最小のものにするという運用で現れる。しかしながら,わが国では,犯罪予防という観点からの行政警察作用では,この点は必ずしも十分ではなかった。ドイツ法及びフランス法に学ぶことが多かったわが国でなぜこのような現象が生じたのかを解明する。この作業の前提となるのは,ドイツ警察法の一般条項の位置づけである。一般条項の適用の在り方に関して,史的に概観したのち,現在における理論的到達点を示す。その際,本研究では,2002年の暴力保護法(Gewaltenschutzgesetz)の施行に伴い,各ラントで新たに整備された住居退去処分の導入に継続して着目する。対DV対策法として生まれたこの法律により,諸ラントの警察法は新たに住居退去処分を導入した。当初は一般条項で対応していたラントも,新たに住居退去処分を導入している。この立法的背景を一次資料の収集と分析で更に探ることで,一般条項の適用の射程を明らかにすることができ,この点についての検討は,犯罪の制止という形式でしか条文を持たず,直接強制の規定としては内容的に不十分なまま運用されてきた警職法の解釈,また今後の立法に関して裨益することが大きいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
主たる理由は旅費の未消化である。2016年度では海外調査を行うことができなかった。2016年度には国内での資料収集と分析の対象が広がり,比較法研究は論文及び立法資料を対象とする国内での調査にとどまった。また,行政警察分野における犯罪対応においては,ドイツにあっては各ラントにおける警察法中にある危険防止のための諸規定に関して横断的な研究により知見を進化させることが必要であって,そのうち,ベルリン州,ヘッセン州,ノルトライ=ヴェストファーレン州の警察法の規定に関して文献調査を行い,規定の概要,適用事例,裁判例等に関して情報収集を行ったが,同3州の警察当局でのヒアリング調査が当方の研究員と先方の予定調整がうまくいかず,次年度に持ち越さざるを得なくなった。そのため,本来,仏独両国で行うべき,ヒアリング及び立法資料調査と資料収集を行うことができなくなり,2017年度にこれを行うことにした。
|
次年度使用額の使用計画 |
2016年度には挙行できなかった海外調査を行う。独仏両国で総計4回,これを行う。ドイツにおいては,ベルリン国立公文書館,フランクフルト及びライプツィッヒにある国立図書館にて各ラントの警察法立法資料及び文献収集を行う。また,ヘッセン州警察当局及びベルリン州警察当局において,行政警察作用のうちカレントな話題であるDV=haeusliche Gewaltの担当部局のヒアリングを行い,これに対する各種警察処分の適用実績等の調査を行う。フランスにおいては,パリ大学図書館等で基本資料の収集を行う。また他方,内務省にヒアリング依頼を行い,DVへの警察対応の実相に関して調査を行う。
|