研究課題/領域番号 |
16K03380
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
川村 力 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (70401015)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ガバナンス / 商業登記 / 法人 / 経済史 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究計画の初年度にあたることから、本研究の中核となる法人理論、とりわけその経済秩序構想との関係に関する、歴史研究の基礎を固めることを念頭に置き、法人理論の私法上・公法上の制度的な前提を調査・整理する作業と、本体となる法人理論の調査・検討を行う作業との、大きく2つの作業を行った。 前者の作業としては、フランス・イタリアを中心として、EU諸国について、(a)コーポレートガバナンス原則の調査を行い、市場法・会社法との関係での位置づけを検討すると共に、(b)商業登記制度の歴史及び取引法上果たしている地位について、調査を進めた。 他方、後者の作業としては、第一に、次年度以降本格的に、(a)法人理論・(b)経済秩序構想につき歴史研究を行うため、それぞれについてまずは通史的な見通しを、その見通し自体の積み重ねがどのような視角からなされてきたかに関する経済史学史的検討と併せて、作業を行うこととした。具体的には、(a)については中世に「法人」概念を生み出すに前提となる「教会」概念の形成にいたる古典期の教会思想の系譜を、教会法およびその前提をなすローマ法さらには哲学史との関係を検討し、(b)については、19世紀「E Meyer・K Bucher論争」の枠組みで論じられる経済史理論の推移を、各時代の政治・経済思想との関係についての仮説を交えて検証し、古典期と近代の両者について経済秩序をどのような枠組みで解釈してきたか、という思考の系譜の整理を行った。また第二に、以上の検討を行うために、東京およびフランス・イタリアの哲学・歴史学・政治学・法制史等を専攻する研究者と、具体的なテクストの解釈および見通しと枠組みの双方について議論を重ねた。 以上のうちの前者の成果の一部として、川村力「代表取締役就任の不実登記」を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、法人理論をその論者の経済秩序構想との関係で把握し、もって現代の市場とガバナンスの取り結ぶ構造の検討を行うことを目指すものであるところ、中でも研究の中核となる法人および経済秩序構想の検討に関し、一方で法人の概念の基礎となる教会法構想について、その思考の古典上の基礎および具体的な背景と成る中世イタリア都市の政治・経済上の課題について、一定の見通しを得、他方で、19世紀以降現在にまでいたる経済史の議論を検討する作業の中で、同議論において20世紀半ばまでを支配してきたprimitivist―modenist論争につき、その置いてきた前提自体の歴史的バイアスを把握することができ、次年度以降の研究により本格的なアプローチを行うための前提が得られたと考えられる。また、現代の市場をめぐる法制度につき、EU諸国の商事取引とガバナンス原則の検討に際しては、とりわけフランスとイタリアについてその制度的・社会的な、さらには思想的な歴史上の積み重ねを意識した作業を行う中で、現在の経済秩序の側から問題把握、さらには歴史研究からの折り返しを行うといった往復作業を、随所に行うことが可能となり、最終的な現代の問題分析を行うために大きな進展があったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、本研究の本丸である法人論及び法人の歴史研究に没頭する。作業は行う場所に応じて大きく2つに分けることができる。第一は国内における作業であり、法人論・法人の歴史に関する資料を渉猟し分析と仮説の構築を行う。第二は、フランスを中心とする国外での作業であり、研究者・実務家との意見交換、文書館や各地図書館での複写、書籍の購入等を含めた資料の収集を行う。 このうち国内での作業は、資料の収集・検討及び国外の調査の準備を行うのであるが、その際適宜東京にて資料を補うと共に、東京大学商法研究会や各分野の研究者との意見交換を継続的に行う。 国外の作業は、第一に、フランスを中心に資料収集と意見交換を行う。その際イタリアでも資料収集・意見交換を行うが、資料がローマ・フィレンツェ・ナポリ等の各地の図書館・文書館に散在していること、また意見交換にあたっては、相手はピサ・ナポリ・サレルノ・パルマ等各地に拠点を有しているが、彼らはまたパリにもネットワークを有していることが多く、相手がパリに訪れる機会を捉えることも可能であることから、パリを拠点として必要な場所に赴くこととする。第二に、滞在期間中に、日本では機会の少ないテーマのシンポジウムや研究会に参加する機会を極力得ることとする。 冒頭に掲げた通り、以上の作業を通じて、今後の研究の核となる法人論及び法人の歴史研究に本格的に取り組むことが予定されている。
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