本年度の研究は、予定してきた研究期間の最終年度にあたることから、①前年度までの研究を継続しつつ、②これまでの研究の成果と課題を整理し、それらを新たな次元に置き換えるための根本的な方法論的検討を行うという意味での、総括の作業を行なった。 ①として、具体的には、第一に、19世紀以降の歴史考察を複合化させてきた一翼たる経済史についての史学史的観点から、1970年代から80年代にかけてのemporiaやterritorioといった具体的な論争点について、S.C. Humphreys、G. Vallet、A. Mele等の個別の議論を取り上げ、それぞれの史料解釈の基礎に留意しつつ、そもそも古代社会(との関係での現代社会)を経済との関係でどのように捉えるかという理論的構想の分析を行い、第二に、経済や領域とより関わりが深くなる物的史料を扱う歴史考察とそれを生み出す社会の偏差と蓄積について、A. Schnappを中心に研究を進めた。 他方で、②これまでの研究においては、一方で、古代世界における政治と経済の関係、都市と領域及びその構造を背景とする単位間での交易関係全体が持つダイナミズムを、他方で、法人論の基礎的考察として、法人の外縁と内実の双方で、市民社会の各層を構成要素とする法概念とそれら相互の連関が近代の基礎となっていくその積み重なりを検討し、現代の政治と市場、市民社会の位置付け、 両者の各層を媒介する貨幣及び金融についての理論対立に着目して、現代の経済社会と法人論に複合的な視点から捉え直す方法論的な構想を得るに至った。
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