伝統的な理解によれば、契約に違反した場合には、履行利益の賠償がされる一方、契約交渉段階における義務違反に対しては、信頼利益の賠償がされる、とされてきた。しかし、契約違反に関する裁判例を子細に見るなら、履行利益ではなく、信頼利益が賠償された例も散見され、しかも、その多くは費用賠償に当たるものであった。本研究では、具体的な裁判例において、何故、そのような解決がされているのかを考究するとともに、そこに潜む合理性を、単に日本法だけでなく、比較法的研究を通じて検討した。学問的に意味があるのみならず、損害賠償の具体的な範囲を確定する際、実務的にも興味深い問題といえる。
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