研究課題/領域番号 |
16K03382
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
小野寺 倫子 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (10601320)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 環境損害 / 民事責任 / フランス法 |
研究実績の概要 |
本研究は、環境侵害から環境それ自体に生じる損害(環境損害)に対する法的対応について、特に民事責任法の領域を中心に、研究するものである。具体的には、近時学説、判例、立法のいずれにおいても活発な動きのみられるフランス法の状況を参照することを研究の中心に位置づけている。 平成28年度の研究の主な内容次の2点である。 ①平成28年度前半は、27年度以前からの継続的研究として、環境損害に関する責任保険制度活用の可能性についての検討を行い、その成果を論文として公表した。 環境損害について侵害行為者に民事責任を負担させることは、環境侵害の場面で、環境法の基本原則のひとつである原因者負担原則に調和する解決をもたらす。しかし、これは潜在的な環境侵害の原因者として想定される事業者にとっては、環境の回復に関する負担のリスクを発生させ、また、加害者に資力がなければ、現実には賠償が不可能であるため、この分野では保険の活用の意義が大きい。 フランスの研究によると、理論的には環境損害の分野でも保険の活用は可能であるが、環境損害に関するフランスの行政法上の責任と民事責任法上の責任との関係のあいまいさが保険制度整備をよりよいものとすることへの障害となっている。下記②の環境損害の賠償に関するあらたな立法がこの問題をすべて解決したといえるかどうかについては、未だ検討の余地が残る。 ②フランスでは「生物多様性、自然および景観の回復のための2016年8月8日の法律第1087号」第4条により、民法典に環境損害の賠償に関する諸規定が挿入された。これにより、フランスでは、環境損害が民事責任法上明文でされたことになる。下記「現在の進捗状況」で説明するように、フランスの民事責任法学、環境法学においてもこの改正に関する議論が始まってまもないため、29年度においては、情報収集を中心に研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度以前から継続して行ってきた環境損害の賠償における保険の活用可能性に関する研究については、公刊が予定よりも若干遅れたものの、年度内に論文を公表することができた。 また、本研究は、環境損害の私法上の救済制度について、特に、フランスにおける環境損害の賠償に関する立法動向に注目するものであるが、研究の申請時点においては、元老院で法案が採択され、司法大臣の諮問を受けたWGの報告書や、これに関する学説の論評等はすでに提示され、改正に向けた議論は熟していたものの、昨今の政治情勢の影響などを受けて、立法の実現時期及び可能性については、不透明性も残されていた。しかし、本研究の開始間もなく、フランスにおいて「生物多様性、自然、景観の回復のための2016年8月8日の法律1087号」第4条により、民法典1386-19条以下(フランス民法典のいわゆる債権法改正の現行法化以後は、同法典1246条以下)に、環境損害の賠償に関する諸規定が挿入された。そのため、平成29年度においては、予定通り、環境損害の賠償に関するフランス民法典の改正に関する検討を開始することができた。 フランスの民法典改正に関する研究においては、まず、改正された民法典の法文をフランス政府の法に関するウェブサイトから入手し、法文の内容それ自体の分析を行った。立法から、それに関するフランスの研究者による研究が公表されるまでは、一定のタイムラグが発生せざるを得ないものの、2016年の秋ごろからフランスでは民事責任法、環境法の研究者双方による論文等の公表や、本改正を受けた教科書等の叙述の改訂が始められているため、これらの諸論稿についても、随時収集し、分析・検討を行ったほか、フランスの研究者による本改正に関する研究会に参加するなどして、最新の情報の収集を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度においては、28年度に引き続き、環境損害の賠償に関するフランス民法典改正に関する検討・分析を中心に研究を推進していく予定である。フランスにおいては、上記のように、環境損害の賠償に関して、複数の条文が民法典に挿入されたものの、それらの新たな規定については、フランスの民法、環境法研究者から、内容の不明確さや、実効性に対する問題点なども指摘されており、このような民法典改正後に残された課題の所在と、その克服の可能性について、さらに検討を行っていく。また、今回の改正では、民事責任法の一般的改正の内容を先取りした形で、環境損害独自の規定ではないものも一部含まれているようであり、フランス民事責任法の一般的改正と環境損害の賠償に関する改正との関係についても明らかにしていく予定である。さらに、これまでの立法に向けた議論と、実際の改正法との違いについても、分析を行う。 検討・分析の対象となるフランスの研究者による論文等については、本研究の性格上、今後も収集と検討・分析を随時並行して行っていく。また、本年度、すでに、フランスの研究者による環境損害の賠償に関するワークショップに参加し、環境損害へのフランスでの対応について、民事責任法と行政法の双方の視点からの今後の展望について、最新の情報を得ることができたが、ひきつづき、このような機会を活用しつつ、情報収集を行う。 このほか、環境損害の賠償を含めた、環境保護の領域における民法の意義について、フランスの研究者の論稿の翻訳を行うことも予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度内に発注した、一部の洋書籍の納品が遅れ、年度内に支払請求が行われなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
上記未納洋書籍が納品され次第、その費用として使用する。
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